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​30周年を迎える日本で唯一の写真・映像の美術館

今後、活躍が期待される新進写真作家の展示会について

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東京都写真美術館

学芸員

小林  麻衣子

東京都写真美術館*(TOP MUSEUM)は、東京都の恵比寿にある世界でもめずらしい、日本で唯一の写真・映像の総合美術館です。

 

今回は2024年10月17日から2025年1月19日まで開催された企画展『現在地のまなざし 日本の新進作家 vol. 21』展を紹介します。展示の魅力はもちろんのこと企画立案の苦労話や醍醐味まで、ご担当の学芸員である小林麻衣子さんに直接お話を伺うことができました。

​プロフィール

小林麻衣子 Kobayashi Maiko  

​東京都写真美術館 学芸員

長野県出身。日本大学芸術学部写真学科を卒業。

 

学生時代に写真に魅了されるが、作家としてではなく別の形で写真と関わっていきたいと思いながらも、大学卒業後は地元に戻り、7年間映画館や一般企業の会社員として勤務した後に、一念発起し再上京。

 

公益財団法人神奈川芸術文化財団展覧会アシスタント、ヨコハマトリエンナーレ2017 コーディネーター、あいちトリエンナーレ2019 アシスタント・キュレーター等を経て、兼ねてから熱望をしていた東京都写真美術館の学芸員に、3回目のチャレンジで採用が決まり、2022年より現職。

東京都写真美術館について

今回ご覧になった『現在地のまなざし』展が展示されていた3階展示室の他に、2階、地下1階にも展示室があり、基本的には3つ別々の展覧会を開催しています。また、1階ホールでは上映を行うなど、多岐にわたって事業を展開しています。

 

ですから、写真や映像の展覧会が初めてで、どういうものを見たらいいのかわからないという方も、興味を持つ展覧会や作品を見つけられたりするのではないかと思います。
 

年間約15本位の展覧会がありるので『現在地のまなざし』展と同時期に開催していた『アレック・ソス 部屋についての部屋』のように、世界中で注目される海外作家の個展から、19世紀の写真や映像を紹介する歴史や時代を感じることのできる展覧会まで、幅広いラインナップです。

 

そのほか、当館は教育普及活動に力を入れていて、子供から大人まで、障害のある人もない人も、たくさんの人に楽しんでいただけるワークショップなど多彩なプログラムを開催しています。また、どなたにも美術館での時間を楽しんでいただけるよう、アクセシビリティの向上にも取り組んでいます。

 

無料で貴重な写真集などを閲覧できる図書室もあるので、ぜひ学生の方にも東京都写真美術館にお越しいただければと思います。

担当学芸員の独自の視点で提案

―これからの活躍が期待される作家5名の作品展

『日本の新進作家 』展について

『日本の新進作家』展というのは、当館で2002年から継続して行っている展覧会のシリーズで、これからの活躍が期待される作家の発掘や支援を目的として、年に1回開催しています。

 

今回で21回目になるのですが、これまでも、多様な視点で展覧会が行われ、たとえば、触覚性について注目した回もあれば、ある詩から着想してイメージをたどり5名の作家を選んだ展覧会など、毎回、担当する学芸員の視点で企画しています。

写真の根幹にある概念に触れるような作品を選ぶ

本展は2022年から準備を進めていましたが、展示の構想はそれよりも前から考えていました。現代では、写真がデータとして扱われることが多く、必ずしも実体を伴っておらず、表現方法も非常に多様です。作家それぞれの独自の目線で写真を眼差して、表現や手法、コンセプトとして扱ったりする、そういった自由な表現としての写真が、今、あると考えています。

 

そのような写真表現の多様さについてそのままに見せるとともに、これからの写真の可能性について鑑賞者とともに考えることができる場をつくりたいと考え、企画しました。

企画の構想段階から、現代の写真についての傾向を一つにまとめることや、定義づけることを目的とすることは、あえて避けて展示をつくりました。多様で独自性のある5名の作家を選んでいく中で、共通して大切にしてきたことは、写真の根幹にある概念に触れるような作家や作品を選んでいくということでした。

『現在地のまなざし』展で選ばれた作家5名の紹介との作品の見どころ

大田黒衣美|Otaguro Emi

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かんのさゆり|Kanno Sayuri

「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol. 21」展示風景

撮影:守屋友樹

提供:東京都写真美術館​​​

大田黒衣美|Otaguro Emi
福岡県生まれ。東京造形大学美術学科絵画科専攻卒業、東京藝術大学大学院修士課程油画科修了。2019年に文化庁新進芸術家海外研修制度を受けベルリンを拠点に活動。絵画、写真、映像、インスタレーションなど、さまざまな手法を用いて生み出される独自の風景は、鑑賞者のあいまいな感覚を刺激する。

 

主な展覧会に「アーティスト@TAD 大田黒衣美『Boiled Aqua』」富山県美術館1階 TADギャラリー(富山、2024年)「ねこのほそ道」豊田市美術館(愛知、2023年)「食と現代美術 Part9—食とアートと人と街—」BankART1929(神奈川、2023年)「DOMANI・明日展 2021」国立新美術館(東京、2021年)など。

 

大田黒衣美さんは大学と大学院で絵画を学びました。現在、その表現方法は絵画だけにとどまらず、彫刻、写真、映像作品もつくったりしている作家です。大田黒さんは、一般に作品の素材として扱うことがあまりない、私たちの生活の身近にある日用品や生物を素材とすることが特徴的です。

 

本展出品作では、チューインガムと猫を素材として扱っています。本展に出品していないこれまでの作品にも、ポケットティッシュの外側のビニールや、ティッシュ自体に絵を描いたり、蟹の甲羅や足を素材として使用した作品があります。私たちが気にも留めないような、当たり前のように周りにある存在に、独自の視点で作品の素材としての役割を与えて、作品に仕上げていくというのが、大田黒さんの作品のユニークな点です。

 

今回、出品していただいた<sun bath>というシリーズの中に写真があります。「sun bath」とは、直訳すると「日光浴」という意味です。この写真には、チューイングガムを人の型に抜いたものが、猫の毛波の上に載せられて写っています。作品を見ていくと、とてものどかなリラックスした雰囲気が伝わってくるような姿勢で人が象られていたり、猫の毛がとってもふかふかして、柔らかい温かみを感じたり、日向にいるような空気が漂っている作品になっています。

 

けれども、よく注意して見ていくと、平面的な写真であるはずなのに、その画面には白や茶色や金色といった豊かな色彩が重なり合っていたり、あるいは、ふかふかした毛や、ちょっと固まってきたガムなど、異なった触感を感じさせる素材が重なり合っていたりしています。絵の具を重ねていくような、絵画的な行為を繰り返していようです。こういった絵画の手法、考え方みたいなものは、この写真の中にも詰まっていると思います。

 

通常であれば人間が猫の動きを制御することは難しいですよね。「そこに止まって」と言っても、猫は言葉がわからないので動き出してしまいます。そういう猫が動かずにここに写っているということ。

 

また、放っておくと、カピカピになったり、硬くなってしまったり、変色してしまったり、時間の経過や熱によって、柔らかさ、形状、色が変わったりしてしまうチューインガムというものを、そのままの形でここに留めている。

 

時間をここに留めておくという写真の根幹にあるような概念、写真が持つ力に注目して、あえて写真を選び取って表現をしているというところが、とても独自で面白いと思い、今回出品していただきました。

かんのさゆり|Kanno Sayuri

「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol. 21」展示風景

撮影:守屋友樹

提供:東京都写真美術館

かんのさゆり|Kanno Sayuri
宮城県生まれ。東北芸術工科大学情報デザイン学科映像コース(現 映像学科)卒業。2000年代初頭の大学在学中からデジタルカメラを使用した作品制作を行い、近作では自身の暮らす土地の暫定的で仮設的な風景の撮影を続けている。

 

主な展覧会に「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022 The Everyday-魚が水について学ぶ方法-」(東京、2022年)、「2020年若手アーティスト支援プログラム Voyage 風景の練習 Practing Landscape」塩竈市杉村惇美術館(宮城、2021年)、「写真の使用法 新たな批評性へ向けて」東京工芸大学 中野キャンパス3号館ギャラリー(東京、2015年)など。

 

 

かんのさゆりさんは、宮城県出身で今も同地を拠点として活動している作家です。今回出していただいたのは<New Standard Landscape>という風景の写真のシリーズになります。かんのさんは大学生のときからデジタル写真で制作をしています。

 

以前はスナップ写真を撮っていた時期もありますが、2011年に発生した東日本大震災をきっかけにして、次第に風景写真に注目して撮るようになっていきます。今回、出品していただいているのも風景写真のシリーズで、東日本大震災後に、風景が一変してしまった東北の風景を撮影した作品を出品しています。

一見すると日本のどこにでもある風景に見えるのですが、注意深く見ていくと、これが東北の風景だったということに気づくような場面に出会うと思います。かんのさんは、風景というものは非常に仮設的であると考えています。

 

今、私たちの目の前にある風景も永遠ではなく、当たり前に見ている風景も、実は知らないうちに変化しているかもしれないということを、かんのさんは興味深く捉えています。

 

風景が、そのときの社会情勢や政治と深く密接に結びついていて、それによって変化が起きているというふうにも考えて風景写真を撮り続けています。

 

一見しただけではどこの風景か判断するのは難しいけれど、東北にかつてあった建物や住宅がなくなってしまって、そこにまた新しい風景が立ち現れている、その瞬間をとらえている写真になります。風景は、これまでも多くの作家が取り組んできた題材、かんのさんは、現代の風景写真の表現を行う作家のなかでも重要な作家であると考えています。

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