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F interview​ 06

「表現力」というのは体験によって裏付けることができる

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編集者・宇佐美 亮祐

家にいる時間が多くなっている昨今。漫画アニメやゲームと多くのサブカルチャーがより親しまれてきた。

その娯楽を提供するクリエーターの一人であるライトノベルの編集者は、現在とこれからの時代に何を思うのか。​いちクリエーターとして働くためには。今のライトノベル、ひいては小説の課題とこれからの在り方について。

クリエーターと編集長、そして一人の読書家としての目線を併せ持つ宇佐美亮祐さんに話を聞いた。

GA文庫ノベルチームの編集長がクリエーターのたまごに向けてもさまざまな提示をする。

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●SBクリエイティブ株式会社

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​●GA文庫出版のライトノベル

プロフィール

宇佐美 亮祐

​Usami, Ryosuke

SBクリエイティブ株式会社

出版事業本部GA文庫編集部 

ノベルチーム編集長

1990年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2013年より出版社勤務。

2017年にSBクリエイティブに入社。

担当作品は『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』等。

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編集者を目指すことになったきっかけ

 

編集者というポジションを明確に意識したのは大学生のときでした。元々小説や漫画がとても好きだったので「エンタメの仕事をしたい」と、子どものころから思っていました。小学校の卒業文集には「作家になりたい」と書いたこともありました。

 大学は『このミステリーがすごい!』に投票ができる大学の中から選ぼうと考え、東大入学のために勉強をしました。

東大に入学し、実際に文芸サークルに入りました。しかし、文芸サークルで本気で創作に取り組んでいる諸先輩方を目の当たりにして、クリエーティブな仕事をしたいということはどういうことなのかと改めて考えました。それでもエンタメの仕事に関わりたいと、自分の適正を考え、社会に貢献できる仕事を探し、編集者という職業について考えるようになりました。

サークルでは年に4回ほど同人誌を作成します。中には小説家を目指す人や、すでにライターの経験があるクリエーターもいます。そのような人たちとサークルの内外を問わず多くの交流があり、そうした交流の中で、クリエーターとそうでない人をつなぐ役割が比較的できると感じるようになりました。そんな経験から、編集者の仕事を志すようになっていきました。

仕事をするうえで大事にしていること

大事にしているのは、なにごとも振り返って思考することです。失敗、成功という結果だけを見るのではなく、どうして失敗、成功をしたのかという過程を考えることが大事です。

たとえば作業をしている際に、その行程は意図どおりに進んだのか、あるいは問題が起きて方針変更をしたか、結果としては意図どおりにつくったけれども、うまくいかなかったのかなど。一つひとつ振り返って思考することが大事です。

試行錯誤することは基本的なことで、ひとつの企画の中でもさまざまな案を挙げたり、また取り下げたりしながら進みます。いざ企画をやってみても、うまくいかないこともあります。その結果を踏まえて次の企画はこういうふうにしようと、失敗や成功した理由を考えることが大事なのです。

 

そのためには、行程を言語化することです。自分の考えや行動を言語化すると、どこかでつまずいたとしても後で振り返ったときに、ポイントを見つけ出すことができるのです。

日頃から考えていることやインプットの方法

日々のインプットが足りているとは少し言い難いのですが、その中でも意識していることは、できるだけ世の中で話題になっていることを追うようにすることです。

たとえば、漫画アプリ内でバズったタイトルは、必ず知る必要があります。最新話までを読む時間はないのですが、その「なにか」が流行ったということを認識するうえでも、ランキングは確認します。すべてを読むのは後回しにしても、アンテナを常に張り続けるようにしています。

藤本タツキさんの『チェンソーマン』の連載のときに、読者の中で、どれほどの盛り上がりだったかは、そのときにしかわかりません。そういった空気感は後から単行本で読んだり、アニメを見たりしても、当時のものとは全く違うわけです。

アプリやネットのランキング等を意識的に毎日見るしかないのですが、自分の見たいものだけが流れるTwitterのタイムラインなどは、意味がありません。業界とは全く関係のない人から情報を収集する機会というのはつくるべきだと思います。

普段はあまり接していないようなジャンルに、意識して触れていくのも大切だと思います。

私はスマホゲームでよく遊ぶのですが、ゲーム内にはギルド的なものがあり、全く知らないおじさんから「今期はこのアニメがおもしろいですよ」という話を世間の声と思って聞いてみるわけです。美容師さんから「『ONE PIECE』を1話から1年くらいかけて見ていて、ゾウ編まで来た」という話が聞けるわけです。そこには「こんな人まで読んでいるんだ」という驚きがあります。こういった新鮮な驚きが大切で、それをどうやって仕入れるかというのは、永遠の課題だと思っています。


 

紙媒体からweb媒体へと移り変わるデジタル化について

世間一般として、紙の本を買う機会は減り、電子書籍で買うことが増えました。でもそれは時代の流れとしては、どうしようもないことだと思っています。読む場所も時間も減り、書店に行くことも少なくなりました。

その流れが続くことで、紙の本がより嗜好品化していくことも避けられないと思います。紙で買うのは特に好きな本だけで、普段は電子書籍で買う。紙の本がひとつのファンアイテムやグッズのようなものになっていくこともあるのではないでしょうか。

電子書籍のシステムもより良いものに変わっていくと思いますし、音楽の話でいえば、少し前まではiTunesでダウンロードした曲はiTunesでしか聞けなかったものが、ガードが外れてフリーになりました。今は各社が漫画アプリをそれぞれで持って運営していますが、ひとつの統合された、非常に大きなアプリができることもあり得ると思います。


 

流行をおさえるうえで今現在とくに注目すべき作品

 

今、エンタメを生業にしたい人は、公開されてすぐに新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』を観に行くべきだと思います。この「今」の空気を感じるためには「今」見る必要があるのはさきほどの話と共通です。『すずめの戸締まり』のネタバレ感想を見たくないから観るまで情報をシャットするという行為は、鑑賞者としては正しいのですが、クリエーターに、特に編集者になりたいのであれば、世間があの映画を観てどう感じたかを、一番盛り上がり話題にしているタイミングで、観なければいけないと思います。

ライトノベルに置き換えるならば『デモンズ・クレスト』です。作家の川原礫さんが次になにをやるかというのは、絶対に知っておく必要があります。それは『ソードアート・オンライン』の新刊を読むことよりも大事なことです。

この2つの作品に限らず、売れているものはすべて無条件でみた方がいい。私も大学生のときはそうだったので共感できるのですが、クリエーティブな仕事を志すような人は、売れているものを見たくなくなるんです。「売れているものは、すでに売れているから、別にみなくてもいい。ほかの人がみているから」と思っていました。おもしろいとわかりきっている作品より、私しかみていないものをおもしろいといった方が価値が高いと。

批評家になりたいのなら、それもいいかもしれませんが、クリエーターになりたいのであれば、売れているものからみた方がいいです。売れているものをみたうえで、売れていないものをみるのです。「それはどうして売れていないのか、どうして響かなかったのか」そういうことを考えるためにも、売れている作品はみておかないといけないのです。


 

GA文庫大賞におけるここ数年の投稿数や作品の質の変化について

ありがたいことに、応募数は着実に増えています。年間で約1500作品以上の応募があるのですが、5年前は1200作品程度でした。応募数に関しては、目に見えて増えてはいるのですが、作品の質に関しては正直なところわからないです。最後の10本に絞ってから前回の作品と比較をするので、全体のレベルが上がってきたと思うことはあまりないのです。

小説を書く人、書こうと思っている人はこの10~15年とても増えていると思います。それは特にweb小説という存在が大きな役割を果たしていて、20年前までは、本を出す、つまりは出版をしないと読んでもらえなかったわけです。小説の同人誌などを買う人は少ないので、商業の出版レベルにまで達しないと、自分だけの作品で終わったのです。

『小説家になろう』をはじめとするweb小説投稿サイトが隆盛することによって、商業以外の場にも読んでくれる人がいるとわかり、小説を書く人がとても増えたのだと思います。それに加えて、今はスマホのソーシャルゲームなどを日常的にやる人が増え、シナリオを読むという体験に触れやすくなったこともあるかもしれません。必ずしもこれらが関係しているとは限りませんが、その結果がGA文庫大賞の投稿数の増加に表れているのでしょう。

本を読む時間が減ったのは事実だと思いますが、逆に本を読まなかった人がテキストを読むようになっていたり、全体で見れば小説に関わりたい、クリエーターになりたい人は増えたのだと思います。

アニメ化を意識した作品づくりをしている小説は増えたか

それはあまり感じません。昨今のアニメには原作が小説であるものが多いと感じる人もいますが、特筆するほど増えてはいないと思います。昔からラノベのアニメ化はありますし、実際に増えていても小説というメディアが向いているのではなく、ここ2〜3年、web小説発の異世界ファンタジーもののアニメが人気で、ビジネスに向いているからでしょうか。


小説の形で企画をスタートさせて、最初からアニメ化にするための企画は存在します。7月から放送されたアニメ『リコリス・リコイル』では小説家のアサウラさんがストーリーの原案のメンバーに入っています。このように小説家を起用することで小説ベース、文字ベースのところから走らせようという企画です。

現在の目標や課題

編集者としてヒット作を出すことです。同時に編集長としても編集部のメンバーが次のヒット作を出すことです。単純に、今新しいものを読んでもらえなくなっている状況が起きています。新しい作品がどれだけ面白いものなのかを、どうやって知ってもらうか、が大きなポイントです。

小説のこれからについて考えていること

状小説や、紙の本を読む人がとても減っていて、これからも減っていくと思います。残念ながら、この状況に関しては避けられないと思っています。特に、新しいものを一生懸命読んでくれるお客さんの絶対数はどんどん減っていくと思います。

売れている作品だけは読んでくれることはあり得ますが、それも全体の量としてはそれほど多くないと思います。売れる作品は売れるとは思いますが、買って読まないで置いておく。買うことそのものが大事になっていき、小説を読むことはマイナーな趣味になっていくだろうと感じています。

しかし、ゲームのシナリオによって、テキストや物語の需要は高まっていますし、なくならないと思っています。YouTubeの動画や、一時期はマンガ動画などが流行り、そういうものを含め、漫画にも原作が必要になっていますよね。ですから、単純に小説というメディアの形が多少マイナーなものになったとしても、物語自体の有用性は、ずっと存続するものだと思います。それを今後も必要なところに、どのように提供していくかが、重要になるかと考えています。

SBクリエイティブ

●SBクリエイティブ社内会議室にて​の取材風景

10代、20代の人たちに伝えたいこと

まだ32歳なので、未来を託してしまうのもどうかとは思ってはいますが、私たちの世代と今の10代・20代で、スマートフォンが普及したころに、ティーンであったかどうかが明確に違っています。いま20代後半の人は中高生のころにiPhoneが出て、その情報通信の流れによって、エンタメは非常に大きな影響を受けたわけです。

私が大学生のころはいわゆるポチポチゲーと呼ばれる、GREEの『モバゲー』や『アメーバピグ』が流行り始めていて、mixiの『サンシャイン牧場』などで遊んでいたのですが、そのころはまだ、ゲームを連打して楽しんでいました。

 

そのような時代から、今や手元の端末でAAA級のリッチなゲームができるところまでこの10年で大きく変わりました。10年前は、電車内で小説を紙の本で読んでいたんです。でも今は周りを見ても誰も文庫を読んでいない。すごい勢いで時代が変化していっているわけです。

人間は幼いころの体験、環境に縛られやすいです。だから変化を恐れてはいけない。「その変化をすぐさま予測して、いかに上手に適応していくか」が大事になると思います。そのためにも世の中を知らないといけないし、過去のこれまでのことも勉強しておく必要もあります。

一握りの天才は自分のセンスだけで生きていくことができますが、残念ながら大体の人はそうではないのです。そのときにどうやって生きていくかは、いろいろなことを知ってそれを次にどう使うかと考え続けるしかありません。

「勉強してください」と伝えるのが一番です。勉強をして損することはありません。若いうちになにかを知ることにデメリットはまったくないから、いろいろなことを勉強して、知識を蓄える、見識を育てるということをやって欲しいです。

クリエーターを目指す人へ

まずは「勉強してほしい」「蓄えてほしい」です。

好きなものだけではなく、知らないことを体験してほしいし、見たことないものを見てほしいです。クリエーター志望だから当然、本を読んだり、映画を観たりはします。でも自分の専門分野だけではなく、サッカーの試合を観たり、スカイツリーに上ったり、旅行に行ったりしてほしいです。

表現力というのは体験によって裏付けることができます。実際は未体験なことも、似たような体験をしていることによって補うことができるのです。

部活をやっていない人がスポーツものの漫画を描くときには、そのような気持ちを考えて描かなければならないのです。サッカーの試合や野球の試合を観に行ったことがない人には、絶対に描けないわけです。テレビで観るのとスタジアムに行って観るのとでも全然違います。現地にいるサポーターの熱気を肌で感じたり、そういった人たちのインタビューや記事を読んだりしてみると、別の視点が見えてきます。

そして、プレイヤー以外のことを書くことによって、興味があったものが舞台化していきます。「この話だったら書けるかもしれない」と考えるようにもなります。

TikTokを見始めてからは、想像もしていないような生活をしている人たちがたくさんいるということが可視化されました。たとえば、トラックの運転手が昼飯をつくるだけの動画があるわけです。動画を視聴しなくても、そういう人がいるのは理解できます。でもそこにリアルはない。本や漫画を読んだり映画を観たりと、具体的な創作物を摂取することも大事なことであり、それはそれで必要なことだと思います。

以上のようなことを実践してさまざまなものを感じてほしいと思っています。

宇佐美様の考える「未来」

この先の未来でなにが起こるかを、今現在、考えているかいないかによって、どういう勝負ができるか、変わると思います。つまり、事前になにかがどこかで起きるかもしれないということを考えておくということです。

考えてもわからないから、とりあえず置いておくということもあるんです。正直今から5年後どうしていますか、と聞かれたとしても全くわからないです。5年前には、編集長になっていることはわかりませんでした。でもそれは、いつ来るかわからなかっただけで、いつかどこかで編集長になる可能性はあると考えていました。想像よりも早いタイミングで来ましたが、そういうことはあり得るとは思っていました。

「一度、頭の隅に置いておいて、実際にその時が訪れたらもっと深く考えよう」未来に対しての準備ですかね。

*下記は本文中に登場する固有名詞の注釈のリンクです。(ジャンル別、本文登場順)

このミステリーがすごい       https://konomys.jp/

 

小説家になろう           https://syosetu.com/

 

藤本タツキ          https://ja.wikipedia.org/wiki/藤本タツキ

『チェンソーマン』      https://chainsawman.dog/

 

『ONE PIECE』        https://one-piece.com/

 

新海誠            https://ja.wikipedia.org/wiki/新海誠

『すずめの戸締まり』     https://suzume-tojimari-movie.jp/

 

川原礫            https://ja.wikipedia.org/wiki/川原礫

『ソードアート・オンライン』 https://dengekibunko.jp/title/sao/

『デモンズクレスト』     https://dengekibunko.jp/special/demonscrest/

 

アサウラ           https://ja.wikipedia.org/wiki/アサウラ

『リコリス・リコイル』    https://lycoris-recoil.com/

GA文庫ホームページ

https://ga.sbcr.jp/

担当作品:『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』特設サイト

https://ga.sbcr.jp/sp/otonari/index.html

●企画/本文構成:飯田 鈴馬

●撮影者:高野 広輝、飯島 太陽

●取材&データ作成:飯田 鈴馬、土屋 愛馨、高野 広輝、飯島 太陽

●WEB制作:飯田 鈴馬

●掲載日:2023/2/10

​取材メモ

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編集部に入るとそこには、SBクリエイティブ出版の本が並ぶ本棚と『ダンまち』の立て看板が……!(トップの画像参考) 実際に来たんだということを認識させられ、一層緊張の度合いが増しました。

インタビューだけでなく依頼書や台本作成、また広報の方とメールのやり取りなど、ミスをすることもありましたが、なんとか終えることができてホッとしています。

印象深いのは言語化能力で、インタビュー外でも考えていることをすらすらと言葉に表してくださいました。やはり文章を商売にしていてコミュニケーションが必須な職業なだけあって、私も見習っていきたいと思いました。

 

この度は取材にご協力いただきありがとうございました。(飯田鈴馬)

私は今回が初取材で緊張して手が震えていましたが、宇佐美様含めGA文庫の皆様のおかげで無事楽しく取材を終えることが出来ました。また、取材終了後に教わった上手い話の引き出し方がとても印象的でした。今後取材を行う際にも、この経験を活かしてより質の良い取材が出来たらと思っております。改めて取材協力ありがとうございました!      (飯島太陽)​

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