F interview 04
キャラクターの一人ひとりの声を聞く
漫画家・古屋 兎丸
『帝一の國』『ライチ★光クラブ』など、読者を惹きつけてやまない独特な雰囲気の作品を繊細で耽美な絵柄で表現し、時代を超越した表現者である古屋兎丸先生。
アンダーグラウンドなものからギャグまでと幅広いジャンルを描き、独自の表現方法や魅せ方で常に読者を虜にする古屋兎丸先生からクリエーターとしての深いお話を聞かせていただきました。
古屋 兎丸
Furuya Usamaru
(1968~)
漫画家
『ライチ★光クラブ』の制作動機
高校2年生のときに入った美術予備校に、バンギャ(=バンギャル)の同級生がたくさんいて、それまではなかったカルチャーのものが自分の中に入ってくる機会がありました。
当時はライブ、演劇、文学、そういったものが渾然一体となって、アンダーグラウンドシーンをつくっていたんです。その中に、漫画家の丸尾末広(※注釈1)先生が参加している『東京グランギニョル(※注釈2)』という劇団が公演した『ライチ光クラブ』を予備校の友達と見に行ったのがきっかけです。
会場は200人も入らないくらいの小さな劇場で、ぎゅうぎゅうにひしめき合って座って見るような感じでした。だけど当時の熱気と、観に来てる人も一緒にムーブメントを作っているような一体感が原体験として忘れられません。小さな演劇特有の一体感がとても心地よくて興奮しました。
自分の中で「創造していかないと」という、強い気持ちが産まれた作品です。
時を経て漫画家デビューして、いろいろなものを描けるスキルを得てから「『ライチ光クラブ』をもう一度自分の手でリメイクしたい」という気持ちが大きくなりました。
それで自分の原点に戻ろうと『ライチ★光クラブ』を描きました。
美術大学の油絵科を卒業してから10年ほど、高校教師と漫画家を二足のわらじでやっていました。週刊連載を始めるにあたって教師を辞職して、漫画家に専念することにしました。
それから数年後、当時の連載があと3ヶ月で終わるという時に、ふと『ライチ光クラブ』を思い出したんです。
『ライチ光クラブ』は台本も映像も残っていない上に、私もうろ覚えでした。少年たちがたくさんいて、ロボットを作って、そのロボットが最後は全員殺してしまう、というくらいのざっくりとしたあらすじしか覚えていなかったんです。なので描くと決めてからは猛烈な取材活動を始めました。
mixiで『東京グランギニョルコミュ』に入り、『ライチ光クラブ』を漫画にするため、当時の劇団員の方やファンの方など、多くの方にご協力いただきました。おかげで当時の貴重な資料がたくさん集まり、それらをもとに新しいストーリーを加えたのが『ライチ★光クラブ』です。
当時を知っている方たちに直接お会いすることで、自分の中でその当時(の記憶)を下ろすことができました。作品は頭の中だけで考えることはできないということです、どの物語も。なにかしら体験が元になっていないと描けないですね。
表現という手段を手に入れ、そうしたら「誰かを喜ばせたい」という気持ちになりました。『ライチ★光クラブ』の場合、ターゲットは自分だったんです。
当時憧れていた飴屋法水(※注釈3)さんにお会いしたりすることで、自分が得てきた芝居からの感動を大切にしながらも、漫画でそれを描くなら今度は読者を喜ばせたいと思ったわけです。
当時のままのストーリーだと、少しキャラクターが弱かった。一人ひとりのキャラクターを強くする必要があった。
ゼラとジャイボとタミヤは性格的にはそのままですけれど、その他のメンバーもキャラクターを立たせ、それをどう物語に絡ませられるかと考えて制作しました。
元の芝居だとゼラとジャイボはボーイズラブ的な関係ではなかったんです。でもそれを入れることによって物語もドラマチックになる。
タミヤとダフとカネダの3人が昔からの仲良しだとか、彼らが「ひかりクラブ」を3人でつくったとか、そういうのも芝居にはなかったです。自分の中で膨らませて、よりドラマチックにしていきました。
演劇を見終わったような感覚にさせたかったので、どうしても1冊に収めたかったんです。全部を通して読んだときにガツンとくるように、と意図しました。
私が初めて『ライチ光クラブ』を見たときの衝撃をそのまま後世に伝えたかったんです。だけどその衝撃は私が元々持ってるものと言うよりも、『東京グランギニョル』の作ったあの当時の作品の世界観と、物語の元の力があったというのが大きいです。
──『ライチ★光クラブ』のキャラクターたちはみんな個性豊かですが、その中でも特に気に入ってるキャラクターやエピソード
外向けには「このキャラが好き」と言うんですが、作家として本音で話すと、一人ひとりのキャラクター全員が大事です。
全員が(キャラクターが)立つように描かないといけないし、全てのキャラクターが良い具合に配置されていないといけない。シナリオをつくる際にキャラクターを配置するための手伝いが脚本なので、どう配置したらきれいな流れになるか、それを私自身が一人ひとりのキャラクターの声を聞きながらお手伝いしている、という感じです。
このキャラクターが好きだから目立たせよう、などは一切なく、すべてのキャラクターが大事なんです。それは物語を描く上でも絶対に必要なことで、逆にキャラクターに引っ張られ過ぎてもいけない。
このキャラクターが好きだからといって、そのキャラクターばかり目立たせていたら物語が破綻することもあります。そのバランスですね。だからどのキャラも大事です。
代表作『ライチ★光クラブ』