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F interview​ 08

印刷の様子 ​市谷の杜 本と活字館HPより

​活版印刷を未来につなぐ

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大日本印刷

コーポレートアーカイブ室

時計台運営グループ

リーダー
佐々木 愛

今印刷といえば、印刷機にデータを送信し印刷してもらうデジタル印刷が主流だ。

それに対し、今まさに活版印刷で印刷しようとしているところはあまりにも少なく、その技術は失われかけている。

「市谷の杜 本と活字館」という施設は、そんな今だからこそ活版印刷の技術を残そうと奔走している。

その活字館のリーダーである佐々木愛さんにお話を伺うにあたり、過去を見る者でなければ気づかない「未来」の在り方について聞くことができた。​

市谷の杜 本と活字館ホームページ

https://ichigaya-letterpress.jp/

instagram

https://www.instagram.com/ichigaya_letterpress/

体験から広がる印刷の奥深さ

 

大日本印刷株式会社(DNP)が運営する「市谷の杜 本と活字館」は印刷を楽しんでいただく施設で、活版印刷の紹介をメインとしていますが、週末にはいろいろなワークショップも実施しています。
活版印刷もシルクスクリーン印刷も製本も全て体験できる施設は他にはありません。他では、活版印刷をしているところは活版だけ、シルクスクリーン印刷がメインでやっているところはシルクスクリーン印刷だけ、という施設が多いです。

「ここに来ればいろいろな印刷が体験できる」というのは大きな魅力だと思います。

「市谷の杜 本と活字館」のある新宿区は空襲が激しく、戦前の建物があまり残っていません。会社としてもそういう歴史ある建物を遺すことで、土地の歴史といったものを地域に根差した形で残していきたいという意向がありました。


この時計台※2は、竣工当時の大正15年の形を復元した姿です。
今はまだ工事して2〜3年ほどしか経っていませんが、実際に建てられてから100年近く経っている建物なので、ここからさらに20年、30年と長く地域の方に楽しんでもらえるようにと思っています。
これから先、この建物がさらに年を取っていくのを楽しみにしています。

 

 

挑戦の始まり:建設遅延とトレーニングの1週間

 

2020年9月ごろにようやく建物の工事が完了したのですが、そこから中の準備を始めることになり、大変でした。

コロナウイルス流行の影響で建築の工事が遅れ、その結果、内装の工事も遅れました。
ようやくスタッフたちが現場でトレーニングできるようになったのは、開館の1週間前でした。

そうして、その年の11月に一応プレオープンという形で開館についてプレスリリースを出し、その後半年をプレオープン期間としてDNPのお得意先や関係者の方々を順番にお呼びして内覧会をやっていました。

コロナの真っ只中で、かつ、途中で緊急事態宣言が始まったこともありまして、まとめてお呼びすることができず、1日に1社か2社ほどしかお招きできませんでした。

 

そうした状況がありましたが、2021年の2月にようやく一般のお客様が入館できるようになりました。

「市谷の杜 本と活字館」の1階は展示物を見ていただくスペースと、印刷所のスペースもあり、両方まとまった面積が必要です。さらに印刷所の中の設備は比較的物が大きく、活字棚や印刷機があるため、展示のスペースが限られてしまい、また古い建築をそのまま使っているので今時の建築では使われないような太い柱が立っていたりと、レイアウトはすごく大変でした。
一つひとつの道具も実際に現場で使っていたもので、おしゃれではありません。それでも、そのまま披露しようと決めました。

 

キャリアの舞台裏:多彩な挑戦の歴程

 

私が就職した当時はメセナ(企業の文化活動)が盛んで、DNPがやっていたギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)というメセナ活動に対して大きな憧れがありました。
幼少期から本が好きだったこともあり、学校へ来た求人をきっかけに入社に至りました。

新卒で入社して以来 DNPに在籍し、最初の10年ぐらいは秀英体フォント※3を作る部署にいました。デジタルフォントを作る部署なので、デザインのチェックを行ったり、外部のグラフィックデザイナーの方に、秀英体をどのように使っているかや、新しい書体のデザインについてなど、ヒアリングに行ったりしました。

その後、電子書籍の技術部門に移り、出版社向けに制作ツールの販促に従事していました。

市谷工場の活版印刷のラインを終了するという時に、設備を保管するようにと会社からの指示で、当時私も含めて何名かが設備の管理担当になりました。

設備の把握だけでなく、お付き合いのある出版社からの要請があった時にご案内したりという管理の仕事をしばらく行っていました。それからこの設備を使って本格的な「市谷の杜 本と活字館」を作るということになりました。


 

未来へと繋げる活版印刷。その2つの課題点

 

今ワークショップでやっている内容は、印刷に触れたことのない方でも楽しむことのできる内容です。しかし、デザイナーの方や、趣味で製本の講座を学んでいる方、カリグラフィーの講座を受けている方など、手を動かす習い事をされている方も多く、そういう方向けに少しレベルアップした内容を用意したいと思っています。そのためにもまず自分たちがレベルアップしていかなければいけません。

活版印刷の技術を後世に残していくために、人の問題と道具の問題の2つの課題があります。

人の問題は長い時間をかけて取り組んでいく必要があります。活字館には技能員が3人いますが、スキルアップのためにも日々館内の印刷物やさまざまなものを刷りながら勉強しています。


道具の問題は、たとえば、行間に入れる「インテル」という長い板を鋳造できるところが今日本に1軒もありません。どこの業界でも、周辺のさまざまな道具から先になくなっていきます。代用品を作るか、あるいは、機械を残している方からお借りして、自分たちで鋳造できるようにするのか。代用品を使うにしても、印刷機の圧力に耐えられるのか、それを繰り返し使って問題ないのか。そういったことを考えていかなければいけません。


課題はすでに明確で、ここからはそれに取り組んでいかなければいけないタイミングです。

クリエーターを目指す10代20代の人に伝えたいこと

 

この施設を担当して感じたことは、とにかく手を動かした方がいいということです。


もちろんWebデザインや映像など、そこで完結するものもありますが、印刷物は物理的な媒体なので、 紙とインキと加工方法の相性が結果に大きく影響してきます。
例えばAdobe Illustratorでグラフィックを使って印刷するという時に、紙やインキを変えただけでも印刷の結果が大きく変わります。機械によっても変わります。そこにプラスして加工していくこともできます。


加工自体も身近な文房具を使ってできるものがいろいろあり、実際にプロのデザイナーの方でもそういう加工をしていらっしゃる方もいました。


今あらためて、印刷物をつくりたいという人が少ないことは理解していますが、 そういう人たちにも積極的に手を動かして作っていただくことで、楽しさを実感できると思います。

佐々木さんにとっての「未来」とは

 

今、この組織がやってることは古い技術の紹介です。製本も新しいことはそう多くありません。既存のものであったり、歴史があるものの方が多いです。


一般的に「未来」とは、何か新しいものがあると考えて、「未来」に向かって進んでいくイメージがあると思います。
けれども私たちがやっているのは、「未来」に背を向けて、過去を向きながら未来に向かって進んでる感じなのです。
後ろを見ながら後ろ向きに歩いている。そして結果的に前進している。
新しいものを生み出すのではなく、過去にあった何かをきちんと咀嚼をして進んでいく。

会社の場所、歴史、古い印刷の技術。そういったものを捨てずに、お客様だったりデザイナーニーズに対してご提供する。

そうすることで新しいものをつくるお手伝いができると考えています。
 

後ろを向いて歩くと言うと「どこに目をつけているんだ」という話ではありますが、今この施設としてはそういうやり方もあっていいと思っています。


会社というものは新しいことを始めて、新しいビジネスをつくっていかなくてはいけない。ですから現状では前の方しか見ることができていません。
しかし、DNPの場合は、歴史が150年もあります。そういった過去150年間培ってきたものをご紹介する。その中の一つが活字であり製本であり、本つくりというところに、スコープしています。少し古いものを見つめて、進んでいく方法。それをみなで考えながら行っています。

●企画/本文構成:森 暉理

●撮影者:鈴木​ 勇也

●取材&データ作成:森 暉理、飯田 鈴馬、鈴木​ 勇也

​取材メモ

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本当にありがとうございました。というのが第一の想いです。
私は体験もインタビューも市谷の杜 本と活字館様にお世話になり、体験の方では活版印刷についての詳しい知識を、インタビューの方ではそれまでになかった新しい未来の見方について教わりました。
活版印刷なんて古い技術、と思われるかもしれませんが、案外そう言ったものが未来の進歩に大きく役立つ。そう教えてくれたのは市谷の杜 本と活字館であり、大日本印刷です。大日本印刷のHPにあるミニ腸をみた時はびっくりしました。印刷技術が医療の分野で役に立ったというのですから。
改めて、本当に大切な経験をさせていただきありがとうございました。
(森 暉理)

活版印刷について学べる記事もあります!(note)

↓リンク

文字のつくりかた_活版印刷の世界を楽しむ:市谷の杜の奥深さに迫る

https://note.com/mojitama2024/n/n166d79793483

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