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F interview​ 02

​大澤先生が代表をしてるRINGSの設立記者会見で

​ドラえもんをつくる未来

日本大学文理学部

次世代社会研究センターRINGS

センター長、情報学科助教
大澤 正彦

日本が誇る国民的キャラクターであるドラえもん。

世の多くの人がドラえもんのいる未来に夢を抱き、「いたらいいな」「会ってみたい」と考えたことがあるであろう。そのドラえもんを本気でつくろうと多くの研究を重ね、「次世代社会研究センター RINGS」設立、2022年度「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の受賞など、若くしてさまざまな実績を積み上げて、現在は次世代社会研究センター RINGSセンター長、日本大学文理学部情報科学科の助教をしているAI研究のスペシャリスト、大澤正彦先生に話を聞いた。

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著書:『ドラえもんを本気でつくる』PHP研究所(2020年)
​手にされているのはミニドラを模したロボットの試作。

プロフィール

大澤 正彦

​Osawa, Masahiko

1993年生まれ。東京工業大学附属科学技術高校情報・コンピュータサイエンス分野、慶應義塾大学理工学部情報工学科をいずれも首席で卒業。2017年慶応義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。

2014年8月、「全脳アーキテクチャ若手の会」を設立。日本認知科学会にて「認知科学若手の会」を設立・2020年3月まで代表。人工知能学会学生編集委員。孫正義育英財団1期生。日本学術振興会特別研究員(DC1)。International Conference on Human-Agent Interaction Organizing Commitee(Sponsorship Chair)2018-2020,HAIシンポジウム運営委員IEEE Young Researcher Award (2015年)をはじめ受賞歴多数。グローバルな活躍が期待される若きイノベーターとして「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」2022に選出。

大澤正彦研究室ホームページ

https://www.masahiko-osawa.com/home

Twitter

https://twitter.com/iwawomaru

次世代社会研究センター RINGS 

https://chs.nihon-u.ac.jp/research/rings/

大澤先生の考えるドラえもんの定義とは

 

 「何ができたらドラえもんなのか」ということを長い間ずっと考えてきました。人工知能が賢くなればよい、記憶や感情があればよい、様々な解決策を考えていました。しかしこの方法でドラえもんを定義するのは不可能でした。

 

 たとえば「ドラえもんの頭は硬いですか、柔らかいですか」と多くの方に質問すると、硬いと答える人と柔らかいと答える人がきっぱり分かれます。ドラえもんというのは、長年に渡ってさまざまな立場から複数のイメージを持たれている存在だからこそ、全員が合意できるような頭の硬さや賢さは決められないと感じました。

 

 ですが、世の中のプロダクトはそういう方向で定義できます。ものづくりの時には機能の要件を並べて定義することができていました。しかし機能の要件をいくら積み上げても完璧なドラえもんの定義はできないと考えたとき「社会的承認による定義」という言葉がわたしの頭の中に浮かびました。「みんなが認めるようなドラえもんをつくりたい」「ドラえもんの定義を発見したい」と思い、そういうドラえもんの定義とはなにかと考えていたとき「ドラえもんと認めてもらう事がドラえもんの定義だ」と思いつきました。

 

 これは変なことを言っているように聞こえるかもしれません。しかし例えばわたしたちは「友だちの定義とは何か」と聞かれても、考えることはできても腑に落ちるものはありません。結局、友だちだと思ったら、友だちです。人間関係の中で、そういう感覚がドラえもんに通じると思います。ドラえもんをモノづくりの世界に引っ張っていきたいと考えているものが、その「社会的承認による定義」というものです。

 

 

愛されて寄り添われるロボットをつくる上でのイメージとは

 

 このロボットが正解だというイメージを押し付けるつもりはありません。

 まず今のロボットと人間、そして未来のロボットと人間を考えたときのギャップをくずさなくてはいけません。ロボットをつくると「これは何ができますか」「これは何の役に立ちますか」と、最初に聞かれます。そしてその人が納得できる便利な部分をみつけたとき、それが初めて愛してもらえるきっかけとなります。対して人間は、生まれたときはみんな赤ちゃんで、例外なく何もできなかったわけです。何もできない存在として生まれてきていますが、最初から愛されています。そして、愛されて育てられるから役に立つようになり、愛を受けて人の輪に馴染んでいきます。

 

 今のロボットは、役に立つから愛されるという順番を求められています。その順番で、人間と同じように愛して愛されて、コミュニティの中で育っていくことができるのかということに、私は非常に懐疑的です。役に立ってから愛されるのではなく、まず愛されてから役に立てるようになっていく―そういうロボットをつくりたいと思い、ロボットと人の関わり方を研究しています。

そもそもAIには感情を持たせられるのか

 

 感情や心は人間にはあるが、ロボットはありえるのかとよく議論されます。しかし、人間に本当に感情はあるのかと聞かれると、はっきりと言えないことがたくさん出てきます。感情や心というのは、それを感じている自分と相手の、人と人との関係性の中で始めて感じるようになるものだと思っています。そう捉えると、ロボットが自分に感情があると感じているとか、わたしたちがロボットに感情を感じるとか、そのように平等に比べることができるのかということが課題になりますが、できないことはない気がします。

 

 ロボットが自分の状態を認識する機能を持っていると、「これは怒りであるという結果を出す→人の表情を見てこの人は怒っていると分析する→ロボットが哀しそうな音声を出力して、人間はロボットが悲しんでいると思う。」

 心とか感情というものをフラットに研究・分析することで、ロボットとの間にもそういうものが芽生える可能性が存在するというのが私の考えです。


 

AI技術の発展により、AIの成長に対して手綱を握ることができるのか

 

 収集がつかなくならないかという話ですが、ないと言ったらロボット開発者として無責任なので、リスクは必ずあると言います。ロボットもAIも人が生み出すテクノロジーです。人を幸せにする未来もあり得れば、人を絶望的に不幸にする未来もあり得ます。だから世界中の研究者や技術者は、より良い未来に導こうと努力しています。

 

 「どうすれば人は支配されずにAIをコントロールし続けられるか」AIの話でこの問題は必ず聞かれます。その答えは「どうすればそれを実現できるか考え続けること」だと思っています。「この方法さえ取ればAIは絶対暴走しません」と言い切り、そこで思考停止してしまうと、技術はどんどん進んでいくので、それでは収集がつかなくなります。常に未来のことをみんなで考え続けることが、最良の未来にするためにするべきことだと考えています。

取材風景1:大澤先生の日本大学文理学部の研究室にて

ドラえもんをつくる上で実現できるサイズ感はどのくらいか

 

 私のポジショントークから話すなら、それを決定しないのが、ドラえもんをつくる人間の責任だと思います。「ドラえもんの129.3センチの大きさの公式的な設定でいてほしい」という人もいれば、「ドラえもんのぬいぐるみとずっと寝ていて、私にとってドラえもんはこのサイズです」という人もいます。一人ひとりのドラえもん像がある中で、私が「129.3センチです」と答えてしまうと、違うという人たちを裏切ってしまいます。ですから、あらゆるサイズ感のあらゆるイメージのドラえもんがありうると考えることが大事です。

 

 以上を踏まえたうえで「ロボットの大きさによって人のリアクションがいかに変わるか」とか、「バーチャルエージェント、コンピューターの中のキャラクターと実物の違いがどれだけあるか」「触れるか触れられないかの違いはどれだけあるか」などの研究が多くされています。触れられるとか、なでられるかというのは、効果として大きいです。たとえばPepperのような人ぐらいの大きさのロボットと、コミュニケーションロボットSota(※注釈リンク先https://www.vstone.co.jp/products/sota/)などの机の上に乗るくらいのサイズのロボットでは、身体の同調の仕方が違うのではないかとか、振る舞いが違うのではないかとか、そういう議論がたくさんあります。それらを総合して試行錯誤していかないといけないと思うのです。そういう意味で色々試しています。


 

ドラえもんの不完全さ、人間らしさを実現するうえで必要なことは

 

 今すでにあるものとして、その弱さと不完全さを演出することで、人に助けてもらえるという趣旨のロボットは実はいろいろ出ています。ロボットが言葉足らずに話すと、その部分を人間が補ってくれるとか、ゴミを拾えないロボットをショッピングモールに置いたら、人間が代わりに拾ってくれたとか、そういう弱さや不完全さが、人間の感情の作用にいかに貢献できているかという研究はあります。

 

 つくりこんでいく過程で「こうしたらこうなる」という知見が増えていくが、それがつくりこみではなく、たまたまできないというだけで、相手に心から支えてもらうにはどうすべきか。それはロボットの技術だけではなく「人間はどのように感じるのか」という人間の研究が必要なのだと思います。そういう意味で、今は、人間の研究を積み上げているようなフェーズなのだと思います。

 

 現在の技術ですでにわかっていることは、徐々に学んでいくことは、ポジティブな効果を生むということです。siri(注釈入れる)|に「料理を作って」と頼んでも作ってくれません。「作って」と頼んで「作れない」と返答されたら、siri(※注釈リンク先 https://ja.wikipedia.org/wiki/Siri)にはそういうことはできないのだと理解します。そこで終了となるのが今のロボットやAIと人との関係性だと思っています。ですが、たとえば、自分の子どもに料理を頼んで作れなくても、来年は作れるようになっている可能性があります。そういう、成長への期待感というものがその弱さを許容して、関わり続けるモチベーションになると思います。成長するというのは機械学習に近いものがあって、人間のように成長する学習技術ができると、その弱さが必ずしもずるがしこさに見えず、弱さにつきあってもらえる可能性があると考えています。

▲子どもの頃からドラえもんが大好きだった

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