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F interview​ 07

「ImaginaryDictionary
​ -未来を編む辞書」とは
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朝日新聞社
メディア研究開発センター

「未来に辞書があるとしたら、どんな言葉が並ぶのだろうか?」

そんなことを考え、未来の言葉にワクワクした覚えがある。
ところが21_21 DESIGN SIGHTで行われた「2121年 Futures In-Sight」展で、未来の辞書に遭遇した。

​今から約100年後の、未来の言葉が掲載された辞書である。

辞書を手に取り、絶句してしまった。面白くて、さまざまな言葉に思いをはせてみた。

辞書をつくったのは、言葉を最大の武器とする新聞をメディアに持つ朝日新聞社のメディア研究開発センターというところである。

「一体、どのようにして辞書をつくったのか」

そして「未来の辞書に選ばれた言葉はどこからきたのか」等々

メディア開発センターの3名の方々と、オンラインでお話を伺うことができた。

プロフィール

浦川 通

Urakawa, Toru

アーティスト・研究者。朝日新聞社メディア研究開発センターにて機械学習・自然言語処 理の研究に従事。主な作品に『意識の辞書』(spiral、2017 年)『はなしたところで(落 花有意/Talked)』(NTT InterCommunication Center、2018 年)『[穴埋め式]世界こと わざ辞典』(TRANS BOOKS DOWNLOADs、2020 年)など。

新妻 巧朗

Niitsuma, Takuro

1994 年生まれ。Web 領域のソフトウェアエンジニアをしていたが、2019 年に退職し奈良 先端科学技術大学院大学へ入学。同大の修士課程で機械学習や自然言語処理を研究。2021 年より朝日新聞社へ入社。同社では、データ分析(データジャーナリズム)や自然言語処 理の研究、各種 Web 関連のソフトウェア開発などを担当している。

田森 秀明

Tamori, Hideaki

メディア研究開発センター次長

博士(情報科学)

北海道札幌市出身。2003 年朝日新聞社入社(技術採用)。発送部管制課、システム部、メ ディアラボを経て現職。2010 年博士後期課程修了、2015-2016 年スタンフォード大学アジ ア太平洋研究所客員研究員。

朝日新聞社メデイア研究開発センター 関連リンク先

【  HP 】         https://cl.asahi.com/
【note】         https://note.com/asahi_ictrad 

twitter】     https://twitter.com › asahi_ictrad

【YouTube】https://www.youtube.com/channel/UCNUtVqGzp4pLD9geIUGpFCA

未来に存在するかもしれない新しい言葉や、未来を収めた辞書を作成しようと考えた経緯

 浦川:未来の言葉を集めた辞書をつくったのは、デジタル技術を生かしたアート作品の制作、人工知能(AI)技術などの研究開発、企業・団体からの依頼による広告作品などを手掛けるQosmoというアーティスト、研究者、プログラマ、デザイナーから構成される集団から相談されたことがきっかけです。

 経緯として、21_21DESIGN SIGHTで、100年後を想像するような展示企画があったのですが、そこへQosmoの参加が決まっていました。「未来の語を集めた辞書のようなモノをつくりたい」と考えていたこと で、主に言葉を計算する部分で M 研(※朝日新聞社メディア研究開発センターの略称)に共作の提案が来ました。

 それで実際にどういうことが技術的にできるのかを話し合い、技術的な部分や、それに合ったコンセプトなどを具体化していきました。M研のメンバーだけで考えたのではなく、Qosmoのメンバーの方々とも一緒につくった作品です。

展示風景(撮影:吉村昌也)

辞書を作成するにあたってのプロセスについて

新妻:朝日新聞写メディア研究開発センターのnoteの「未来を編む辞書」の内容を一言で表すとしたら、「40年分の朝日新聞の中で起こった単語の意味の変化が今後も続くと仮定して、辞書の形式で意味をつくるAIのようなものに単語の意味を考えさせた」という言葉になると思います。これを具体化したものがnoteの記事です。

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noteより引用部分

 

浦川:M研(※朝日新聞写メディア研究開発センターの通称、以下同じ)では新聞社として大量にテキストのデータを持っていますが、ただ大量に持っているだけではなく、ここに時間的な量があります。140年くらい前から新聞として刷られ続けていますが、実際にデジタルデータになっているものは過去40年分くらいのものだということだけです。

 言葉の意味が時代によって移り変わることを計算する手法が研究されています。

例として、英語のブロードキャスト(Broadcast)という単語が挙げられます。今はインターネットやテレビなどの放送にかかわるところに使われていますが、もともとは種をまくなどの農業に関する言葉だったようです。このように単語の意味がどんどん変わっていることを、時代ごとの文章の集まりから計算していく技術があるわけです。

ここでは一つの主成分だけを使って一方向の変動だけを表現していますが、実際の作品では複数の主成分を使ったり、1980sと2010sだけではなく1990sと2010sや2000sと2010sといったペアで得た主成分も活用して、様々なパターンの通時的な変動を外挿することでいくつかの未来を表現しています。

 この技術を用いて、朝日新聞社が所持している記事をもとに言葉の時代的な変遷を計算して、そこから未来の様子を推測します。

 確実にこうなるという未来の予測をするわけではなく、今の流れがこのまま続いたら、これまでの変遷とは違う流れが起きたら、どうなるだろうかという「未来の言葉の使われ方を想像するためのツール」としての推測を行いました。

 それに基づいて言葉の意味の変遷を計算し、そこから未来の言葉の意味を計算したうえで新しい言葉をつくっています。

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資料5:2010sの軸に合わせるように変換

浦川:具体的な例を実際のデータを使って挙げると、「男性」と「育児」という二つの言葉があります。この単語の関係が過去では離れていたけれど、時間の変遷に従って近づいてきているのです。

 つまり、昔の単語の分布で、近いところにある単語は意味が近いということなのですが、その近さが時代によって変わっていくということですね。未来の言葉のマップをつくったうえで新しい言葉をつくっていきます。

資料6:これはプログラミングが男性に近く、家事が女性に近い単語になっているという例です。

 たとえば「コンピューターウイルス(コンピューターのウイルス)」、「はまぐり(浜にある栗)」などの言葉ありますが、二つの異なる単語が合成されて新しい言葉になりました。このような合成は新語をつくるときによくとられる方法と言われています。この方法を参考に単語埋め込みのなかで、単語の意味のマップから近い意味の単語どうしを合わせて、それを新しい語彙にしていきます。

 実際の計算ですが、「文章」という語を、現在の類似語では「文」、「単語」、「作文」などの言葉が近くにあります。それを未来の類似語で計算すると「文章論」「簡潔」などがあらわれ、「皮膚感覚」「肉体派」のような見慣れない語もあらわれています。もしかしたら、そのときに“肉体文章”という新しい合成された言葉が生まれるかもしれないーという計算の仕方をして、未来の単語埋め込みの状況から単語と単語を組み合わせる。このようにして未来にあるかもしれない新しい言葉をつくりました。

「2121年Futures In-Sight」に未来を編む辞書を展示しての反響など

 

田森:浦川のところには様々なところからの取材依頼がありました。この取材もまさに反響の一つなのかなと思いますね。

 

浦川:あるメディアの普段から言葉を扱う仕事をされている編集者の方や、AIの研究をしているほかの企業の方から、話を聞きたいと言われたこともあります。技術的な面で興味を持ってもらうことと、技術的な面を超えた作品としても興味を持ってもらえているということ、双方が叶えられて、うれしく思います。

 

新妻:そういった意味でM研のつながりが増えたと感じます。以前からさらに輪が広がったという感覚ですね。私たちが研究しているものは懇求寄りのものが多いと思います。そんな中でアート寄りのものを出したことで一つ広がりが増えたのではないかと感じる部分があります。

 

浦川:新聞社が「2121年Futures In-Sight」のような展示ことに参加した自体が珍しいです。そういったことも含めて反響があったと感じています。

◉展覧会概要

「2121年 Futures In-Sight」展[1] 

会期: 2021年12月21日(火)- 2022年5月822日(日)

会場: 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

主催: 21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団

後援: 経済産業省、港区教育委員会

特別協賛: 三井不動産株式会社

協力: 株式会社中川ケミカル

Imaginary Dictionary -未来を編む辞書

コンセプト :Qosmo, 朝日新聞社メディア研究開発センター

 

企画・Data Dramatization:Qosmo

 Art Director: 堂園翔矢

 Lead Engineer(Data Visualization): Jungers Robin

 Engineer(Data Visualization): 中嶋亮介

 Designer: 伊勢尚生

 Project Manager: 安江沙希子

 Supervisor: 徳井直生

 

新語推測・生成: 朝日新聞社メディア研究開発センター

 Technical Director/Language Modeling: 浦川通

 Data Scientist: 新妻巧朗

 Supervisor: 田森秀明

 

 

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