F interview 09
THE TOKYO MATRIX アノマリー・クエスト入口前
THE TOKYO MATRIXに迫る
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
ビジネス戦略部
海外事業戦略オフィス 次長
兼 TTMオフィス プロデューサー
松平 恒幸
多くのエンターテインメントがこの日本で楽しまれている中、自粛期間が明けた今、再び自分自身で体験するエンタメが注目を浴びだした。
そんな中、ゲームやアニメでしかありえなかった冒険が体験できる、リアルダンジョンTHE TOKYO MATEIXがオープンした。
そこで開催中の『ソードアート・オンライン‐アノマリー・クエスト‐』でプロデューサーを務めている松平恒幸さんに話を聞く。
本施設のこだわりや裏話だけでなく、今後の体験型アトラクションの考えについても聞いてみた。
アニメやゲームの世界をあなた自身で体験できるリアルダンジョン『THE TOKYO MATRIX』とは⁉
『THE TOKYO MATRIX』はどのような経緯でつくられたのでしょうか
『THE TOKYO MATRIX』の企画が始まったのはかれこれ5年ほど前の話になります。現在『アノマリー・クエスト』が開催されている、東急歌舞伎町タワーの地下(Zeep Shinjuku/ZERO TOKYO)と6階(THEATER MILANO-Za)を株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントと東急グループの共同でプロデュースしているのですが、4階を私たちが所属している株式会社ソニー・ミュージックソリューションズに任されたのがきっかけとなります。
ソニー・ミュージックグループはご存じのとおり、アニメや音楽といったほかにも幅広く事業を展開しているのですが、私たちソニー・ミュージックソリューションズという会社はイベントや配信などエンターテインメントをお客さまに届けるソリューションを主な仕事にしています。
コロナ以前は中国とアメリカを中心に、VRの遊園地や体験アトラクションが盛り上がっていました。ですから私たちもどこか場所に根ざしたエンターテインメント、ロケーションベースエンターテインメントの波に乗る方針があり、新規事業担当のチームだった私たちが担当することになりました。
実際に企画が始まったときは、今のリアルダンジョンとはまったく異なる構想で進んでいました。どちらかといえばビジネス寄りな発想で、インバウンド施設としての収益性をひたすら考えていました。ですがそんなときにコロナが来てしまいました。
新宿がインバウンドの街だからこその外国人ターゲットでしたので、外国人が来なければ成り立ちませんでした。であるのであれば日本人に向けて、繰り返し訪れたくなるようなエンターテインメントを作ろうと新たな企画を立ち上げたのが今の形に落ち着いたのです。
この”繰り返し訪れる”ということにすごく重点を置いていて、ほとんどの遊園地のアトラクションは1回で満足できますよね。友人などに共有こそすれど、来週また行くことはそうそうないです。
VR系も同じでストーリー体験をベースにしてしまうと、その1回で満足できてしまうのです。ですので、繰り返しチャレンジできるアトラクションをプロデュースできれば発明になるぞと思ったのです。
片やテレビでも、肉体の限界に挑むスポーツバラエティ番組が海外でも話題になったり、ハンターから逃げる心理逃走劇の番組など、そういったなにかに一生懸命チャレンジするタイプのエンターテインメントの人気は間違いないと思いました。
結果それらを掛け合わせ、繰り返しチャレンジするダンジョンが骨格としてできてきました。遊園地のアトラクション制作をいくつも手がけていたことがあったので、そこのノウハウを活かしつつでき上がったのが『THE TOKYO MATRIX』になります。
施設の完成後に気づいたのが、ビデオゲームの本質をリアルに持ってきたということにほかならないということです。
怪獣に攫われたお姫様を助けにいくゲームがあると思いますが、最初は弱い敵にもやられますよね。それを学習して徐々に上達していき最後の8面までいくと、ボスの怪獣と戦えるようになります。
繰り返しやって、上達して、より奥まで進んでいく。それを生身でやるように変えた、そのようなアトラクションになっています。
ターゲットの年齢層と実際の来場者はどれくらいでしたか
ターゲットとしては15歳から25歳ぐらいまでの主に男性を軸に作っています。体を動かしたり頭を使う体験、世界観やダンジョンなどの用語のゲーム体験。これらがどちらもこの年代にヒットしているといった調査結果を元に絞っていきました。
実際に最初から攻略組で来ていたのも17歳〜20歳の男性チームでした。
ですから概ね当たってはいたのですが、想定外だったのはカップルの方たちがすごく多かったことです。まさにキリトとアスナのように、2人きりで攻略するチームも多く少し驚きました。
ただ、施設自体は安全性には十分配慮しているものの、若い方を対象にしているだけあってハードなので、私のような40代、それ以上の方々は十分に注意して挑戦していただきたいですね。
新しいダンジョンについて考えていることはありますか
ありますが、まだ公開できない情報があるので詳しくは話せません。ただいろいろな意味で結構変わると思っています。
現在『アノマリー・クエスト』がとても賑わっているのですが、私たちとしても正解がわからない状態でスタートしているのです。というのも世の中に類似しているものがあまりなく、今までの方法論がうまく当てはめることができなかったからです。
ですがそうした中でも実際に運営をしてきたことで、正解が見えてきたところもありました。それを元に大幅なリニューアルはする予定です。おそらく『アノマリー・クエスト』もそれを区切りに終了させていただくと思います。
ARやVRといった技術を取り入れたりする予定はありますか
今のところXR系の仕掛けを入れる予定はないです。企画の段階でもやはりそういった話は上がりましたし、かなり積極的に検討もしました。
ただ、没入感を与えることは大事ではあるのですが、この施設に関してはいかにノンデバイスで、そして自分の肉体だけで、物理的な場所にいる。このアプローチを大事にしていきたいので、入れることはないと思います。
施設内通貨の『トポロ』を作った理由はなんでしょうか
この施設には拡張性を持たせたいと考えています。ダンジョン攻略のみならず、この施設でさまざまなことが行えるようにしていきたいと考えているわけです。そこで没入感を高めるためにも、施設内通貨である『トポロ』というものを設定させていただきました。
遊びに来ていただく方はもちろん、外側からアクセスできるような形ができた場合にもトポロを利用したサービスの提供なども考えています。
『トポロ』という名前にはどういった意味が込められているのですか
『トポロ』の由来なのですが、物理学の用語「トポロジー」から取っています。
「トポロジー」とは量子物理学の中にある概念のひとつなのですが、実は施設のデザインも量子物理学をコンセプトに制作されています。
ファサードを見てもらうとわかりやすいのですが、スーパーカミオカンデという量子を観測する施設をオマージュしています。こうしたものをデザインに取り入れようと考えたきっかけになったのが量子コンピュータです。
量子コンピュータとは簡単に言えばひとつの事象を分岐で計算するのではなく、同時に計算するというものです。たとえば、生きている状態・死んでいる状態、両方の可能性を同時に量子として持っているという。
それをコンセプトに落とし込んで、様々な可能性があったり、シミュレーション性のようなものを持った施設であってほしい、という意味を持たせて量子物理学をコンセプトにしています。