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F interview11

​日本科学未来館正面

7年ぶりのリニューアル
日本の最高峰の未来館

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日本科学未来館

科学コミュニケーション室 室長代理


宮原 裕美

ご存知!日本科学未来館は日本のサイエンス系の博物館の最高峰です。そこでは見るだけではなく楽しく体験できるとあって人気のコーナーには何時間も並ぶほど。しかも2023年11月に7年ぶりに常設展示を大規模リニューアル。編集部としては見逃すはずはありません。早速体験してきました。その上、「こんな未来がいいな」を叶える未来を逆算して考える方法なども、未来科学最前線の方にお話しもお伺いしました。

宮原裕美(日本科学未来館 科学コミュニケーション室長代理)

千葉大学大学院で美術教育課程修了後、秋吉台国際芸術村、九州国立博物館等を経て2008年から現職。科学技術や芸術も含めた文化活動を、社会や教育との関わりの中で表現・実践することに興味を持つ。常設展示の企画設計をはじめとして、10代の女性を対象にしたSTEAM教育プログラムや、若い世代が科学者やクリエイターと一緒に展示をつくるプロジェクトなどを行う。

常設展では「世界をさぐる」「未来をつくる」「地球とつながる」という3つのコンセプトに分かれていますが、そのコンセプトについてもう少し詳しくお聞かせください。

 

日本科学未来館が開館して23年ほど経ちましたが、最初は「生命科学」「情報科学」「自然科学」「フロンティア」の4つの大きな学問に分けられていました。しかし、いきなり『生命科学』と言っても難しいので、10年ほど前に現在の「世界をさぐる」「未来をつくる」「地球とつながる」という3つのレイヤーに整理することになりました。

 

『世界をさぐる』の中には生命、環境、宇宙にスポットをあてた展示があります。

なぜこのような展示になっているかと言いますと、人間の中には細胞──つまりは生命があり、人間の周りには環境が、その周りには地球が、宇宙が。と視野を大きく広げた中で「人間ってなんだろう」と考えていくのがこのフロアになっているためです。

そうして『人間』というものの立ち位置が、とても広い中で考えた時にどのような立ち位置なのかをさぐるということがこのフロアのコンセプトになっています。

 

『未来をつくる』フロアでは「私たち人間がどのような未来をつくるのか」という考え方を表現したエリアになります。ここでは、コンピューターやIT系、ロボットにまつわる『イノベーション』の展示が主にされています。

 

『地球とつながる』というところでは、未来館のシンボル展示にもなっているジオ・コスモスが深く関わってきます。

私たちは地球で暮らしていますが、地球を外側から見ることはなかなかありませんよね。

ですので宇宙飛行士であった初代館長の毛利衛の宇宙から見た「地球の姿」というのをみなさんとシェアしたいという想いと「常に地球を感じ、つながりながら世界を見据えた上で未来をどうつくるのか」という観点から、地球に関わる展示コンセプトがあります。


 

7年ぶりに常設展が大規模リニューアルされましたが、リニューアルに至った経緯を教えてください

 

浅川が館長に着任して、私たちが4つの領域と呼んでいる「Life(ライフ)」「Society(ソサエティ)」「Earth(アース)」「Frontier(フロンティア)」の4点に注力して活動していく方針のもと、リサーチグループが設置されました。

グループごとに科学コミュニケーターなど専門知識を持った職員がリサーチを進めました。そうして議論を重ねた結果、現在の「ナナイロクエスト」や、「ハロー!ロボット」といった展示が完成しました。



 

2016年に公開した『未来逆算思考』という展示でテーマとしている「バックキャスティング思考」についてもう少し詳しくお聞かせください。

 

『バックキャスト思考』というのは、最初に理想的な未来を描き、 そこから逆算して、今できることから取り組むという考え方です。一方『フォアキャスト思考』という考え方もあり、こちらは目の前の課題に向き合い、またひとつ出てきた課題に向き合う、そのため道筋としては紆余曲折があります。

 

元々モノづくりや技術の発展には「フォアキャスト」が主流でした。今もその考え方は多く、「こんな技術ができました。何に使いましょう」というようなことが起こっていたりもしました。

良かれと思って開発したものが、後々「期待したものと違った」「大きな課題を生んでしまった」これらを防ぐために、まず理想的な未来を描きましょうというのが『バックキャスト思考』になります。

 

ですので受験勉強などに近いですね。自分のやりたいこと、なりたいものを目標に、「どんな勉強をすればいいのかな」「学校はどうしようかな」「合格のためには今なにを勉強するか」みたいなことを逆算していくことで、やることが明確になってやる気も出ますよね。

 

まず重要なのが、理想の未来像「ビジョン」を描けるかどうかです。その後、理想の未来に向かって自分が今何ができるかを考える、そういった思考こそが未来逆算思考になっていきます。

時々、「何のためにこの勉強しているのか」と考えることがあると思います。それを自分のやりたいこととどう結びつけられるか。それはモチベーションをどのようにつくるかということで、ゲームととても相性がいいのです。


 

今回、『未来逆算思考』の展示では、プロのゲームデザイナーが参加しているそうですが、そのいきさつ、経緯について教えてください

 

実は前例がありまして、以前『アナグラのうた』という『空間情報科学』をテーマにした展示で、ゲームクリエーターの方に関わっていただきました。

現在、立命館大学の教授をされている飯田 和敏先生と、株式会社エウレカでeスポーツの開発をしていた犬飼博士さんにタッグを組んでいただき、飯田先生にはコンセプトの根幹を、犬飼博士さんには展示開発に携わっていただきました。

結果的に展示は大成功し、ゲーム的手法を取り入れるというのは、きっかけづくりやモチベーションの維持にとても有効だということを学ぶことができました。

 

『未来逆算思考』を展示するにあたっても、「バックキャストという思考がありまして」という説明をいきなりされても、困惑してしまいますので、ただ情報を受け取るだけではなく、興味を持ったうえで体験に臨めるような展示にできたらと当時思いました。

ですから導入から楽しんでいただくためにも、ゲーム的要素を取り入れ、専門的なところをプロであるゲームクリエーターの方にお願いさせていただきました。


 

『未来逆算思考』の制作上で苦労したことはありますか

 

ゲーム的な要素についても大きなチャレンジはありましたが、その他で言うと、理想の未来自体を定義すること、また理想の未来を想像してもらう展示体験ストーリーづくりに苦労しました。
 

一度までの挑戦と表記がありましたが、ゲームの進め方次第で結末が変わりますよね。
複数回体験してもいいのでしょうか

 

一度までと表記はされていますが、並んでいる方がいなければ再チャレンジしてみてください。何度も体験したほうが展示としておもしろいのに、なぜ「一度まで」と掲出しているのかと思うかもしれません。未来館には多くの方が来館されますので、よりたくさんの方に体験していただくためには一人ずつの体験回数を制限しなければならないケースがあります。この展示も「来場された方全員が安全に快適に過ごしてもらう」という使命との天秤にかけて、「一度まで」という制限を設けました。

 

こうしたせめぎあいというのは、普通のゲームをつくるときも同じだと思います。事業として成立させるには課金をしてもらいたいけれど、そこに依存しないフェアなゲームもつくりたい、というような。

記事を書くにしても、10,000字で事細かに説明したいと言っても、編集サイドから「そんなの誰も読みませんよ、1,000字程度でお願いします」と一蹴されてしまいます。

 

全員の考えが最初から一つにまとまっていることは多くはないと思います。だけれど、そこをどう乗り越えるかというのが、クリアしがいのあるチャレンジだなと思います。

真面目に取り組むことが前提にあるうえで、少しこういった考え方も持っていたほうが仕事をするにしても面白いと思うのです。


 

 

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