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  • 『未来職安』

    作品:未来職安 著者:柞刈湯葉 (イスカリユバ) 出版社:双葉社 まずあらすじだが将棋や囲碁などで相次いでコンピューターがプロに勝利し、自動車運転の完全自動化も実用化が近づくなど、発展が著しい人工知能。その進歩の速さに、「いずれ人間の仕事は機械に奪われてしまうのでは?」という疑問も絵空事とは言えなくなってきた。 未来職安はまさにそういう理由で人類の99%が職を失うことになったが、ベーシックインカムでそこそこ生きていける。 主要人物達は、私たちが住んでいる、世界のことを過去のものといい私たちが住んでいる世界よりはるかに楽で自由の富んだ世界で人口の99%が職を持たないまま、政府支給の生活基本金で暮らす「消費者」となり、残り1%だけが「生産者」となるその1%の中の二人と猫一匹である。二人と猫がいる事務所に舞い込んでくる仕事は様々な事情と個性を持った依頼人たちの依頼をこなしていくその日常を描いた日常近未来SF。 柞刈湯葉(いすかりゆば)のユーモアあふれる語り口に、私は胸を膨らませやってくるのではないかとそんな気がしてしまう未来を明日に描くSF物語。未来を想像しながら働かない自分を想像してしまうあなた。AIに社会を乗っ取られることを一回は想像し危惧したあなた。そんな人に私はこの一つの未来を描いた一冊をお勧めしたい。良ければ手に取り読んでみてはいかがだろうか。

  • 未来予想の入門書ー『AI2041 人工知能が変える20年後の未来』

    カイフー・リー(李 開復) (著), チェン・チウファン(陳 楸帆) (著), 中原 尚哉 (翻訳) 出版社:文藝春秋 20年後。「ミライ」どうなっているでしょうか。 AIが人類を超えるだったり、第三次世界大戦が始まるだったり。変わり種ではゾンビが作られてバイオハザードのようなパンデミックになっている、と言う人もいるかもしれません。 実際そのようなことが起きるにせよ起きないにせよ、未来を予測し、準備しておくことはとても大事です。 本書は20年後の未来を「技術的な面から」予想したSF短編小説集になります。小説といっても技術顧問にはGoogle中国支部の元社長や各方面の専門家が協議してつくられているそうです。 収められた10話では様々な未来に生まれるであろう技術が取り上げられます。そして著者は実際に20年後に、その技術が生まれている確率は80%あると言っています。 私が「未来予想の入門書」として紹介するのはこの点にあり、20年後の技術を知っておくことはあなたが未来を想像する大きな手助けになることでしょう。 ただ、一つ伝えたいことがあります。本書や他の方が紹介している本を読んで、「あ、未来はこうなんだ」と決めつけたりはしないでください。私たちがひとつ選択を行うたびに未来は大きく変わります。 「もしも第三次世界大戦が勃発したら?」技術はかなりの躍進を遂げるかもしれません。核戦争が起きて地球が大打撃を受け、人類が衰退していくことになることも考えられます。 私が「技術的な面から」の予想だと言ったのはこの点で、世界は技術だけで動いているわけではありません。政治的、文化的、倫理的、経済的、視点は数多くあります。 これからもよく学び、様々な視点を身につけ、そして「ミライ」への糧にしていってください。 そして、そんな未来創造に、この本は絶対に役立つことでしょう。 Text:2年 森 暉理

  • 作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021

    著者:高村 薫 出版社:毎日新聞出版 「作家は時代の神経」――書店で見かけたこのタイトルが目に留まった。今年度のテーマが「未来」ということもあり、とりわけクリエイターの感性というものには敏感になっていた折に、その端的なワードに心を惹かれたのだ。 本書は毎日新聞出版より発行の週刊誌『サンデー毎日』にて、著者が寄稿した「サンデー時評」を再構成したものである。内容としては世界中で起こった事件・事故・異変を取り上げ、危機感の薄い日本社会に向けて警鐘を鳴らすものがほとんどである。そのため、強い言葉による批判が数多い。これらの時評を読み進めるたびに、現代の日本政治にはまるで正論が通用しないことを思い知らされるだろう。 本書のタイトルは担当編集者の提案によるものらしい。その出典は小説家(故)開高健氏が、1960年に雑誌に寄稿したポーランドの旅行記の一節とのこと。そして作家である著者自身は、自分が時代の神経などとは考えていないと記している。それでも雑誌に時評を寄せる上で、日々の出来事の中で自分が肌で感じたことを言葉にしているのだという。間違ってもテレビと新聞の前で管を巻いてるだけ、などと呼ばわってはいけないのだ。 本書のあとがきは“(日本から)世界に誇れるもののほとんどが失われたからといって、直ちに絶望する必要はあるまい”と締めくくられている。その上で“デジタル化が人間の文明にとって最善の解であるとは限らない”、“未知のウイルス一つで脅威にさらされることもある人間の暮らしの脆さについて、まずは静かに考えてみるとき”とも語っている。未来と言われて紋切り型に思いつく「デジタルの極み」な社会が、果たして幸せなものなのかどうか。あまたのSFで示された未来の結末を、今一度見直してみるのもいいかもしれない。 なお、これらの時評は2021年5月以前のものなので、2022年の出来事は当然ながら記述されていない。つまり2022年7月に、日本全国を震撼させた安倍元首相暗殺についてのことは掲載されていない。著者の時評がもっと気になる方は、今年の夏頃に出る2022年度クロニクルの購入について検討してみることをお勧めする。 Text:3年 長澤 尚輝

  • シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜

    原作:硬梨菜 作画:不二涼介 出版社:講談社 皆さんはゲームが好きですか?僕はゲーム科なのでゲームは大好きです。では、ゲームの未来はどうなっているのでしょうか。 ゲームの未来といったらもちろんフルダイブVRですよね。待ち望んんでいる人もいるのではないですか? フルダイブVRとは、仮想現実と五感を接続することで、映像や音声を感じるだけでなく、意識全体が仮想世界に入り込めるというものです。 (参照「わかる! 仮想現実その歩みとフィクションの影響/ARとの違い」より) フルダイブを知らなかった人もこれが実現されるかもしれないとなるとワクワクが止まらないのではないのでしょうか。かくいう私も止まりません。 さて、前置きが長くなりましたが今回紹介する本は『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』という作品です。 この作品のあらすじがこちらになります。 『世に100の神ゲーあれば、世に1000のクソゲーが存在する。 バグ、エラー、テクスチャ崩壊、矛盾シナリオ………大衆に忌避と後悔を刻み込むゲームというカテゴリにおける影。 そんなクソゲーをこよなく愛する少年が、ちょっとしたきっかけから大衆が認めた神ゲーに挑む。 それによって少年を中心にゲームも、リアルも変化し始める。だが少年は今日も神ゲーのスペックに恐れおののく。 「特定の挙動でゲームが強制終了しない……!!」』 (参照:小説家になろう「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」より) そして、こちらの作品は主にゲームの話なのですが、そのゲームがすべてフルダイブVRなのです。 こちらの作品はあまり出来が良くなくバグやがエラーが多くあるいわゆるクソゲーを愛する主人公の陽務楽郎がふとしたことから大衆が認める神ゲーをすることから始まる物語となっています。そしてそこで始める神ゲーが”シャングリラ・フロンティア”というわけです。 シャングリラ・フロンティアの中で主人公がゲームの中心となり、クソゲー時代の仲間などと一緒にシャングリラ・フロンティアを攻略していく話となっています。 本作品といったらなんといっても主人公陽務楽郎の戦闘時の爽快感ですね。戦闘時主人公がノリに乗って敵を倒すシーンは爽快感を感じながら読み進めることができます。 ほかにも、クソゲー時代の仲間なのですがこれがまた癖が強いんですね。そしてなんと主人公も癖が強いんですよ。これは実際にイラスト見てもらわないとなにをいっているんだと思うかと思いますが、主人公はゲーム開始時、半裸で鳥のマスクをかぶってゲームを開始します。もうこれだけで主人公のくせの強さ、作者の癖の強さがわかったと思います。その主人公とやっていけているぐらいですから…そりゃあ、仲間も癖が強いですよね。そういうことです。 そしてこちらの作品は実績の面でも好成績を残しております。2021年の「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第5位を獲得しています。こちらの面からもどれだけこの作品が人気なのかわかったと思います。 気になった方は一度読んでみてはどうでしょうか。 Text:1年 髙野 広輝

  • グッドアンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか

    『グッド・アンセスターわたしたちは「よき祖先」になれるか』 著者:ローマン・クルツナリック 翻訳:松本 紹圭 出版社:あすなろ書房 この本では我々が「よき祖先」になるために何を考え、どのように行動すべきかが書かれて いる。 まず始めに短期主義と長期主義の綱引きの仕組みについて。次に、長期思考をするうえで存在する6種類の方法について。最後に、前述した6種類の方法が現代においてどのように取り組まれているかを実例とともに語る、という3つのパートに分かれている。 「短期思考」と「長期思考」。私たちは既にどちらも持ち合わせていたのだ。 本書の帯にもある『「短期思考」から「長期思考」へ』。本を読む前にはてっきり短期思考に囚われているとばかり思っていたがそうではなかった。いや、正確に言えば囚われているのだが、そこから脱する一歩は既に踏み出していたのだ。 そもそも短期思考と長期思考の差というものがどのようなものか二つほど例を挙げる。 休日にビーチで大はしゃぎするか、それとも老後のために貯蓄をするか。 目の前におやつを置き、15分の間食べなかったら一つ増える状況にて、今すぐ食べるか二つになるまで我慢するか。 後者の例は4~6歳の子どもを対象に実験されたもので、結果としては三分の二がすぐにおやつに手を出してしまうというものだった。 この結果は人間が本来持つ「短期思考」が表れた結果ではあるが、その半面、三分の一が我慢をできたという証拠でもある。 つまり子どものころから長期的な考えを持つことはできているのだ。 しかしそれがそのまま定着するわけではない。もちろん一部の人や一時の行動ではあるかもしれないが、全体を見通した時の数は少ないだろう。だからといってこのまま生きていけば目の前のことばかりに囚われる生活になってしまう。 そのためにも今すでに「長期思考」が身になる直前だと学ぶことができた私たちから行動に移していかなければいけないと思う。 おそらく周りの環境で今すぐに結果や報酬を得なければいけない、ということが多々あると思う。未来を見据える考えは大切だが今が覚束ない状態では意味がない。だが全て流されていては結局は変わらない。どこかでリスクを負わなければならないのだ。 そこで「何を、どう考えるか」というのが本書には記載されている。ぜひ本書を自身の目で読み取り、思考し、まずは5年後、10年後に何をしたいかというのを考えてみるといいかもしれない。 Text:2年 飯田鈴馬

  • 天才たちの未来予測図

    『天才たちの未来予測図』 著者:成田悠輔、斎藤幸平、小島武仁、内田舞 編著者:高橋弘樹 発行所:株式会社マガジンハウス 私はこのコロナ渦で変わった生活や家庭内での経済問題の経験を経て、社会情勢に焦点を当てて物事を考えることが多くなりました。社会情勢を知れば知るほど日本の未来についても考えてみたいと思うようになりました。そこで今回、私が読んだ中でも特に興味深いと感じた「天才たちの未来予想図」という本について紹介したいと思います。 この本では、タイトルの通りの天才4人が登場します。簡単に紹介すると、イェール大学助教授・成田悠輔、東京大学准教授・斎藤幸平、東京大学マーケティングセンター長・小島武仁、ハーバード大学医学部助教授・内田舞の4名です。大学名だけでもわかるこのそうそうたる方たちが、自らの研究、知識をもとに未来予想を繰り広げます。 成田悠輔先生は、「『わけが分からない人間』が輝く時代」というテーマをもとに、先生の研究対象である「データ」を使って未来を予測していきます。今まで当たり前だと思っていたことが実際データ化してみると明らかに間違いであったり、それを踏まえた上での未来の教育の在り方について語ったりしています。教育関係に興味のある方は必見です。 斎藤幸平先生は、「『脱成長』で、格差と環境問題を“同時に”解決」というテーマを軸に話を進めていきます。ここでは、現在の資本主義国家の日本の現状を見たうえでマルキシスト的な目線で考える未来について話しています。比較的多くの人が思っている「社会主義」のイメージが変わるかもしれません。個人的には一番面白かったです。 小島武仁先生は、「『マッチング理論』で、社会のゆがみを正す」というテーマに沿って、人事面から話を進めていきます。内容説明共にシンプルで、読めば人事の問題が割と単純に解決できることに驚くかもしれません。 内田舞先生は、「最新脳科学からわかった『心を壊さない』思考法」という、これまでの天才たちとは一風変わった目線から話を展開していきます。主に子供の心について理解することが出来る内容です。 以上の4人の天才がそれぞれの方面から未来を予測していく様子をこの本一冊で体感することが出来ます。これを読み、天才たちとともにあなたも未来予測をしてみてはどうでしょうか。予測した未来をもとに進めば、あなたの毎日が少し楽しくなるかもしれません。 Text:1年 飯島太陽

  • 新しい世界を生きるための14のSF

    編者:伴名練 出版社:早川書房 SF大好き! この本は、そんな人に向けて、AIが進歩したりコロナが流行ったりしている現代に対応した、新進気鋭の新人SF作家14人による渾身の短編集となっています。前書きでは、「『三体』の次に読むべきSFはこれだよと広めてください」とあったので、私も加勢できればと思い紹介文を書かせていただきます。 本書は短編とはいえ14本もお話が載っているので本自体割と分厚いです。しかし、目次には「宇宙」「超能力」「VR」のようにタイトルと共にそれぞれのテーマが記載されているので、自分の気になった作品からつまみ読みしていくことも可能になっています。普段あまり本を読まないよという方でも手に取りやすいのではないでしょうか。 私が特に気に入っている作品は、1番目に掲載されている八島游舷の『Final Anchors』 です。AIの自動運転が当たり前になった近未来。AI搭載車には不測の事態に備えて、緊急停止用の通称“ファイナル・アンカー”が備え付けられている。しかしアンカーを射出して車を停止させると搭乗者は衝撃に耐えられず死亡してしまう。ある交差点、二台の車の衝突予測は0.488秒後。どちらが“アンカー”を射出して犠牲になるべきか、AI同士の最終審判が始まる…。 このお話はAI同士の対話で進行していきます。どちらにこの事故の責任があるか、搭乗者 はなぜこうしなかった、運転手の社会的地位は、など多角的な視点で犠牲者を決めるんですが、AIの中に感情が見えたりして話が複雑になっていくさまが非常におもしろく、ぜひ読んでもらいたい一作です。自動運転の倫理問題について考えるきっかけにもなりました。ちなみに結末はかなり“エモい“です。 他にも江戸時代に繰り広げられたスパコン騒動を描く『大江戸しんぐらりてぃ』や“某激安の殿堂“が蔓延したサイバーパンク世界を描く『ショッピング・エクスプロージョン 』、あの大流行した感染病が存在しない鏡の世界との接続を描く『それはいきなり繋がっ た』など、最新のSFテーマを新鮮な切り口で調理した短編がたっぷり14作収録されてい ます。 いよいよSF(サイエンス・フィクション)がSNF(サイエンス・ノンフィクション)になっていく21世紀。新世界を生き抜くために、新しい価値観を本書で“インストール”していきましょう! Text:3年 河本 ワダチ

  • 未来いそっぷ

    著者:星新一 出版社:新潮社(新潮文庫) 『ボッコちゃん』『ノックの音が』など1001編もの作品を生み出した作家・星新一。 この本は、主にイソップ童話を基にした彼のショートショート33編が収録されている。 幼い頃から馴染み深いイソップ童話に現代的な視点から切り込み、そもそもの童話たちか ら得られる教訓をすべて覆させるような斬新なストーリー運び、軽快な語り口調のためフ ランクな面白さもある。 そしてこの『未来いそっぷ』は、イソップ童話の話だけではない。星新一氏の作品を読ん だことがある人なら覚えのあるであろう、『エヌ氏』の話も出てくる。 そういった星新一ワールドがふんだんに詰め込まれた本作は、ぜひ読書家にもそうでな い方にも手に取ってもらいたい作品である。 Text:2年 中村倫

  • 歌うクジラ(上・下)

    『歌うクジラ』(上・下) 著者:村上龍 出版社:講談社 この本に目が止まったのはあらすじから見れる世界観からだった、クジラの遺伝子が持つ不老不死の力が変える日本の未来、遺伝子が見つかった100年後の世界、その中で旅をする主人公に自分は興味を持ち、書本を手にとった。 物語は新出島と言われる性犯罪者が隔離されている施設がある島の出身、タナカアキラと同郷の仲間との旅を追う物語である。「歌うクジラ」は人間が不老不死を手に入れた2117年の日本が舞台だ。 2022年クジラから不老不死の遺伝子を手に入れた人間達。日本は「文化経済効率化運動」と、「最適生体」理念による上層、中層、下層の棲み分け制作を推進した。遺伝子操作による賞罰も行われる(功労者は不老不死に、犯罪者は生命を絶たれる)など、精神薬によって人の心を統制、性と記憶のコントロールが行われる。 新出島ではあらゆる自由や文化的なものは生活から奪われてしまう。食事をも制限されていて食材を棒状に練ったものしか与えられない生活を強いられる。住人たちは教育を受ける事も制限されているために、敬語も使えずそれぞれに不思議な話し方をしている。 島民は一体何のために生きているのか、そう思えるほどに過酷な状況の中で生きている。だがその環境が「あたりまえ」なのでなんの疑問も島民は抱かない。新出島で生きた少年の旅は父の死と遺言によって始まる。 アキラ達は旅の途中で出会う人々との交流や広い世界を見ることによって、自分の生活していた新出島での環境や日本社会の異様さに少しづつ気づいていく。 何もかもを制限された世界で見つけた様々なものやアキラが人々と交流していく中では仲間や協力者だけではなくアキラの旅を阻む人間とも出会う。 そこで起こる様々なトラブルやアキラの体験した事の無い喧嘩や暴力なども起きるが、アキラはその経験を力にして成長していく。 旅を通してのアキラの成長や旅の果てに得るものはなんなのか、父が残した遺言を届けた先にあるのは喜劇なのかそれとも悲劇なのか、真実をその目で見届けて欲しい。

  • 失われた過去と未来の犯罪

    『失われた過去と未来の犯罪』 著者:小林泰三 出版社:KADOKAWA ミステリ小説、と聞くとリアリティのある堅い作品が多い印象はないだろうか。 実際、私が読むミステリ作品のほとんどは無理のない人物設定であったり、現代の時間軸に沿ったりしている作品が多い。ここで紹介する作品『失われた過去と未来の犯罪』はSFミステリという、一風変わった物語である。 女子高生の結城梨乃は、自分の記憶が10分程すると失われていることに気が付く。その現象は彼女どころか、世界中で巻き起こっていた。 人は通常「短期記憶」と呼ばれる記憶から「長期記憶」へと情報を処理していく。彼女達はみな、その処理が急にできなくなってしまったのだ。 本作は突如として「大忘却」と呼ばれる現象に見舞われた人類と、自分の記憶が記録される外部メモリーが主流になった「大忘却」後の世界の話の二部構成となっている。 第2章からは、自身の体にメモリーを差し込むことでしか記憶を維持できない人物が登場する。それは、時代が流れる上で当然のことなのだ。 私はガラケーを知っているが、ほとんど使ったことはない。高校生になり初めて持った携帯はスマホだった。今の小学生にガラケーという言葉が通じるとは思っていない。 ここでみなさんに、あることを尋ねたい。 「彼らは本当に彼らと言えるのか??」 生まれてから外部メモリーに自分の記憶がある人間は、メモリーが抜けたら記憶もごっそり抜け落ちることとなる。そうなったとき、残された空っぽの彼らは本当に彼らなのだろうか? この作品は、単純に記憶ができなくなっただけでは終わらない。アイデンティティや死生観、人間関係……多様な視点から、読者に問いかけてくる。 著者である小林泰三の作品には、少し変わったミステリ作品が多くある。普段からミステリを読む方々には物足りなさを感じるかもしれない。しかし、いつもは味わえないこの感覚を是非体験していただきたい。 私たちの記憶が続いているうちに、記憶が続かなくなった「未来」を、その目で見てきてほしいと思う。 Text:3年 野水聖来

  • 未来

    『未来』 著者:湊かなえ 出版社:双葉社(双葉文庫) ミステリ好きなら語らずにはいられない作者と言われたら、私は真っ先に本作品の著者である湊かなえを推す。一人称で進むストーリーは、どの人物も不安定で闇がある。その不安定さは読者を物語の世界に引き込みながらもどこかリアリティのある問題を突きつける。 今回は、そんな湊かなえの作品『未来』を紹介する。 本作品は、湊かなえデビュー10周年の記念作品となる長編書き下ろしの作品だ。 父を亡くし、人形の状態の母との2人暮らしをしていたある日、一通の手紙が届く。20年後の自分だという送り主に向け、章子は返事の手紙をしたためるようになる。 本作品でも「湊かなえワールド」全開で、章が変わるたびに語り手が変わり、登場人物たちの壮絶な人生が露わになっていく。そうすると、ひとつの大きな事件の真相が見えてくる。 私の知る湊かなえの作品は、読後の多くに胸の中にしこりが残るような作品が多い。イヤミス(読後にイヤな気持ちになるミステリ作品)とまではいかずとも、少なくとも「未来」を感じることは私には難しかった。 しかし、本作においては仄暗い中にもどこか「未来」を感じられる作品であるように思う。 一方で、前述させていただいた登場人物の不安定さと、そこから滲み出るリアリティは本作でもひしと伝わってくる。 章子を取り巻く家庭環境、学校生活。章子の視点から外れた後も、現代における社会問題と闇を感じることができる。 最近、ニュースでは事件の犯人の背景を取り上げることが多くなったように思う。SNS上でも犯人に同情の気持ちを示すコメントが寄せられるような事件が見られることもある。 自身を取り巻く環境に限界がきたとき、人は思いもよらない行動に出る。本作ではそれを生々しく感じられる。 登場人物の彼女らにとっての「未来」とは何か? 「幸福」とは何か? 「希望」とは何か?−−そして、未来の自分からの手紙の真相とは? いつもと一味違った湊かなえの作品を、ぜひ手にとっていただきたい。 Text:3年 野水聖来

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