廃棄物から「未来」を考える
21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展の作品「ゴミを取り除く『ジレンマ』を解く」について
私自身、今回のように企画に携わることは初めてだったので、自分がどんな形で携わることができるのか、とても悩みました。
誰もがゴミを出したいと思って生活しているわけではなく、「美味しいものを食べたい」、「自分の好みの服を着たい」、「時間を節約するための便利なものを買いたい」、というように自分のプラスにしたいから、モノを買うんです。ゴミを出したくて出しているわけではなくて、いい暮らしをしたいという考えに付随して、出てくるものがゴミだと思っています。ですが、現実問題、ゴミが課題になっている。そういうジレンマが存在すると思ったので、そのことを作品のタイトルにしました。
本当は展示会や展示の企画をする中で出てくるようなゴミを並べることができたら、メッセージ性も強くなると思ったのですが、調整が難しかったので上勝町で実際に出た廃棄物を並べました。
実際、作品として並べた廃棄物はどれも上勝町で再生が難しいと言われたものです。上勝町には、再生が難しい廃棄物が2割あると言われていて、それらは焼却か埋め立ての手段しか上勝町には残されていません。
▶ただの廃棄物でも、視点を変えれば未来を考えるための作品となる。
下記で大塚さんに詳しく話していただいているが読む前に「なぜ再生が難しいのか」を考えてほしい。
例えば、身近な素材であるゴムや塩化ビニル、革などは再生が難しいと言われています。また、服や靴など、合成繊維や複合素材は分別を難しくしてしまいます。
この造花の置物は美しさとゴミのジレンマを象徴的に表すものとしてとても面白いと思います。日常を彩るために作られたものだけれど、土台はコンクリートと新聞でぎゅっと固められていて、焼却もできないモノになってしまっています。
ペンキ缶やマジック、マニキュアなどは中身をきれいにすることが可能なら、ガラス容器などは再生ができますが、この状態は水も汚れてしまう。上勝町にはそういった先端的な技術がないと埋め立て対象になってしまいます。
貝殻も住民によってはカルシウム剤として畑に蒔く方もいますが、実は埋め立てになってしまいます。
このように、一人ひとりの住民の努力だけではどうにもならない、どうしてもゴミになってしまっているものがある、これが現実です。
でもこれは、課題でもあるけれど反対に伸びしろがあり、チャンスであると思っています。上勝町は、小規模な自治体で小規模な山間部と合致しているために、焼却やリサイクルの施設を持つことができない自治体です。それでも外に頼らざるを得ない状況であっても、外部へ依存しないようにしながらゴミをなるべくゼロにしていこうという考え方にいたったのが上勝町です。
上勝町だけが頑張ることではなくて、社会全体でゼロ・ウェイストの選択肢が自然に選べたら、無理がなくていいと思います。
この作品展示を通して、実際に上勝町にインターンに来てくれた芸術大学の4年生の学生がいました。みなさんと同じようにコンタクトをくれて、この夏1カ月間、私たちとセンターに携わってくれました。
彼は就職先が決まっている中で卒業制作を考えるにあたり、自分がこれからもデザインを続けて、ものづくりに携わっていくうえで、「自分の手掛けたものがゴミになって本当にいいのか」という疑問から、上勝町にやってきてくれました。
最初は、彼が学んだことをデザインやグラフィックなどで発信するというアイディアでした。ですが、自分自身のコミュニティでできることを考えたほうがいいのではないかと考え直し、現在はキャンパス内の無機物のゴミ箱のコーナーをデザインし直しています。
それはとても小さな一歩ですが、嬉しい変化だと思っています。
※現在、21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展は開催されておりません。
10代、20代に伝えたいこと
私がこの上勝町という仕事や生活の場を選べたのは、学生時代にいろいろな場所を訪れて、いろいろな人に出会って、いろいろな暮らしの在り方に触れられたからだと思っています。
必ずしも、大きな会社に就職することがゴールではなくて、多様な選択があるということに気づけてよかったと感じています。フットワークを軽く、自分の中でのキーワードとして心に残るものがあればそれを突き詰めて進んでいくと、また新しいキーワードを見つけられるはずです。
「つくる側」へと立つことになる、クリエーターを目指す人へ
ぜひ一度、上勝町に来てほしいなと思います。
インテリアやカーデザインなど、物を作る最前線にいると思うので、最後はどうなっているのかということに、触れていただきたいです。
先日いらしたメーカーの方も、利用者の顔が見えない中でモノをつくるということに対して違和感を持たれていました。
実際に上勝町に来ていただき、一生懸命分別している住民の顔を見るとインスピレーションになってものづくりに生かされるのではないかと思います。
出発点だけではなくて、クリエーターの方の手から離れた先であるものが通ったところも見ていただきたい、というのはクリエーターの方に伝えたいです。
「未来」とは
21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展でディレクションを務めていた松島倫明さんが編集長をされている『WIRED CONFERENCE 2022』に参加しました。『FUTURES/REALITIES』という、複数ある未来と現実をテーマにしたお話を2日間させていただきました。
私自身が見たい未来の話をすると、大きな都市の成長だけでなく、スモールスケールがいくつも重なって、循環していく未来があればいいなと思います。
上勝町での暮らしの中で未来を見つけていきたいです。
一方でキャリアとしては上勝町にずっと留まるということは考えていません。他の拠点に行っても関係性が続くような方法が見つかればいいと思いますし、中立的な立場にいることがとても重要だと感じています。今はその在り方を模索しています。
まだまだ、力不足だということを感じてることもあります。ビジネスの企画を考える時も、廃棄物に関しては、未熟なので、大学院での学びや研究も考えています。国内外はわからないことが山積みです。“上勝町”というフィールドを持ちながら、自分がリサーチを行っていく立場になってみたいと、思っています。
さいごに
以下、取材の際に話題にあげた藝大・デザイン学部4年に所属するインターン生の
その後の、取り組みについて掲載されています。こちらも是非見ていただきたいと思います。
〇プロジェクトについて:「藝大 再木市場」
〇藝大ホームページ:https://diploma-works.geidai.ac.jp/2022/catalogue/design/noguchi_masaharu.html
〇ツイッター:https://twitter.com/GEI_CY/status/1619994487228612608?s=20&t=IuQOi-IKetfE12A_MhR-sg
●企画/本文構成:野水 聖来
●取材&データ作成:野水 聖来・高野 広輝
●WEB制作 : 野水 聖来・高野 広輝
●掲載日 : 2023/2/10