ドラえもんが完成したら
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ドラえもんの不完全さ、人間らしさを実現するうえで必要なことは
今すでにあるものとして、その弱さと不完全さを演出することで、人に助けてもらえるという趣旨のロボットは実はいろいろ出ています。ロボットが言葉足らずに話すと、その部分を人間が補ってくれるとか、ゴミを拾えないロボットをショッピングモールに置いたら、人間が代わりに拾ってくれたとか、そういう弱さや不完全さが、人間の感情の作用にいかに貢献できているかという研究はあります。
つくりこんでいく過程で「こうしたらこうなる」という知見が増えていくが、それがつくりこみではなく、たまたまできないというだけで、相手に心から支えてもらうにはどうすべきか。それはロボットの技術だけではなく「人間はどのように感じるのか」という人間の研究が必要なのだと思います。そういう意味で、今は、人間の研究を積み上げているようなフェーズなのだと思います。
現在の技術で、すでにわかっていることは、徐々に学んでいくことは、ポジティブな効果を生むということです。siri に「料理を作って」と頼んでも作ってくれません。「作って」と頼んで「作れない」と返答されたら、siriにはそういうことはできないのだと理解します。そこで終了となるのが今のロボットやAIと人との関係性だと思っています。ですが、たとえば、自分の子どもに料理を頼んで作れなくても、来年は作れるようになっている可能性があります。そういう、成長への期待感というものがその弱さを許容して、関わり続けるモチベーションになると思います。成長するというのは機械学習に近いものがあって、人間のように成長する学習技術ができると、その弱さが必ずしもずるがしこさに見えず、弱さにつきあってもらえる可能性があると考えています。
ドラえもんが完成したとしたら、その次は何をしたいか
研究者をやめて、児童養護施設のおじいちゃんになりたいと、思っています。
ドラえもんの完成の前に完了があります。みんなが、いずれドラえもんと認めてくれるものが、自分なりにベストをつくしてできあがったら、その時点で私のプロジェクトは完了でいいと思うのです。そのあとは、そのドラえもんが世の中で愛されていくのを見守ればいいので、見守るときに研究者である必要はないと思っています。
ドラえもんをつくるプロジェクトが完了したら、そのあとはどんな世界になっていくかを考えます。
一方でiPhoneを発明し世界を変えた、そのことで莫大な儲けが出ます。もう一方では、ひとりの人ととことん向き合って、その人を幸せにする。一銭の儲けにもならないかもしれない。お金で測られるこの世の中では、この価値観の差が、二つの間には極端にあるようにみえます。でもこのふたつは、同じぐらい素晴らしいことだと思うのです。
そういう世の中で何をきっかけにして世界が変わるのかと考えたときに「一人ひとりに寄り添う力が充分に満たされている世界になればいい、寄り添う力がテクノロジーで大きくなればいい」と思いつき、「あれ。それ、ドラえもんができたら、できるのではないか」という気持ちになってきました。
もちろん、そのために私はドラえもんをつくるわけではなくて、長年の夢だからドラえもんをつくっているのですが、夢を追いかけた結果、そういう世の中になったら、誇らしいと思います。そのとき、自分が何をやりたいのかというと、人に寄り添うことがやりたいのです。自分らしい寄り添い方は、児童養護施設のおじいちゃんなのかもしれません。
2020年に設立した「次世代社会研究センター RINGS」について
ドラえもんをつくるために何ものになればいいのかと学生時代に一生懸命考えました。
どこに所属しようかと悩んでいたときに、どこに入ってもドラえもんはつくれないと思ってしまいました。でも諦められず「どこに入ればいいかではなく、どこに入ってなにを変えればドラえもんをつくれるのか」と考えました。「大学に入って大学の在り方を変えられたら、ドラえもんをつくることができるかもしれない」と思いました。いまの日本の社会における大学の位置づけは、どうしても偏差値や既存の価値観に人を押し込めることで序列をつくっているように感じています。
私の夢のひとつとして、お互いに相手の夢をリスペクトしながらひと一つの夢として一緒にドラえもんをつくるというものがあります。みなが支えあうから夢はかなっていきます。同じように100人いたら100通りの夢があり、そういう状態を大学という場所でつくれたら、世の中の価値創出のあり方が変わる気がするのです。
そういうことをやりたくて大学の先生になりました。大学の先生になる前からこの研究センターの構想はあり「大学でなぜそれができないのか」「どうしたらできるのか」ということに対して、計画を立てました。
ひとりの先生が100人の学生をみて、100人分の価値軸を発見してあげることはどうしても難しいです。一人ひとりが教えあうようなコミュニティを築き、学外の様々な才能を持っている人たちに入ってきてもらえれば「教える人と学ぶ人」ではなくて「教えあう人と学びあう人」になる。そのような場所をつくりたいと思いました。学生にだって教えられることはたくさんあり、私が学生に教えてもらうことも多いのです。

取材風景2:学生たちに話すように気さくに、わかりやすく話していただきました。
未来を担う10代、20代に伝えたいこと
「一緒にドラえもんをつくりませんか?」。わたしは80億の世界中の人たちと一緒にドラえもんをつくることができたら最高だと思っています。
みなさんの夢に貢献したいし、仲間になりたいというラブコールをお伝えできたらいいですね。
クリエイターを目指す人へのメッセージ
無責任なことあえて言わせていただくと、みなさんの作品はどれも素晴らしいと思います。
私も、ものづくりをする立場だからこそ、楽しくつくったものには自己満足しました。幼稚園のころは謎のトイレットペーパーの芯をつけただけのオブジェに満足していたこともありました。大人になり急に、作品に対して、評価される対象になっているのが面白くないのです。
作品の良し悪しを図るよりは、「あなたも素晴らしいし、あなたの作品も素晴らしいよね、なぜなら〜」をテンプレートにしたい。その続きをみんなで考えていく方がよっぽど素敵だと。
そういうことが当たり前になればと思うのです。「わたしの作品はすばらしい。なぜなら〜」から続く言葉を考えましょう。それで、人から「あなたの作品素晴らしいよね。なぜなら〜」を感じてもらう、良いきっかけとして提案できたらと思います。
あなたにとって、未来とはー
「変えられるけれど、思い通りにはできないもの」でしょうか。そういう意味では僕たちの研究テーマである「心(自分のも、他人のも)」とも似ているかもしれません。
自分が何か取る行動を1使えれば、未来も、(自分や他人の)心も少なからず変化するはずです。
けれど、その変化は自分の思い通りにするわけではない。
だからこそ、よく観察しながら向き合い続けなければならない存在なのかなと思っています。
●企画/本文構成:矢島 水月
●撮影者:飯田 鈴馬
●取材&データ作成:矢島 水月、 河本 ワダチ、 土屋 愛馨
取材メモ
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今回、大澤正彦先生を取材させていただきました。
場所は世田谷にある日本大学の大きなキャンパスの中の先生の研究室でした。
大澤先生のお話から。多くのことを学び、自分の凝り固まった価値観を取り払い、柔軟な考え方を持つことの大切さに気づかせていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。
ご本人は物腰柔らかでユーモア溢れる方で、取材中もずっと明るい雰囲気で取材させていただき、ほんとうに良かったと心から思います。
この先の日本に、どんな未来が待っているかは、分かりませんが、少なくとも大澤先生のビジョンは社会での大きな礎となることは間違いないと、お話をお伺いしながら、感じました。
お忙しいなか、お時間をいただき、ありがとうございました。(矢島 水月)