『白昼夢の青写真』に込めたテーマについて
演者さんのすごさを届けたい
複数のキャラクターをひとりの声優さんが演じ分ける。それ自体に物語的な意味があるような企画をやりたいという発想は、ラプラシアンのデビュー作の開発中からありました。
収録立ち会いの際に、本当に芝居ができる演者さんのすごさを目の当たりにして、これをユーザーさんにも届けたいと思ったんです。
あとはそこからの逆算で、同じ声帯からの声ならば、複数のヒロインが実はひとりのヒロインの別の姿で、それぞれが生きている世界があって、複数の世界を予算内でつくるために過去作の世界観を流用して、と、企画の概要が固まっていきました。
『白昼夢の青写真』で目指した次の段階とは具体的になにか
実績を開放をしないと次にいけない
結果として『白昼夢の青写真』という作品は、会社の収益構造そのものを変化させる作品になりました。この作品をきっかけにお付き合いが始まった取引先もたくさんあります。
エンターテイメント業界では、良質な原作の権利を確保することが、交渉の場でもいい立ち位置をとることに繋がります。我々のような零細企業にとっては、これこそが大手企業と渡り合う唯一の手段と言えます。
個人的に、自分は過去作でやるべきことをやりきれなかったという不甲斐ない思いを抱えていました。すっからかんになるまでやっていない、自分の才能を使い切れていない。
そういう感覚が残っていると、ひとつの作品から獲得できる経験値が低いんです。出せる力を出し切って、自分の全てをひとつの作品に注ぎ込む。
その体験の実績を開放しないと、書き手として自分は次のステージにいけないと思っていたので、『白昼夢の青写真』は自分が納得できるまではリリースしないと決めていました。
クリエーターとしての信念について
作品に込める信念と人生の多面化
強いて言えば、「人を楽しませる創作が自分の仕事である」というのが信念です。
作品の具体的な部分、細かい方針はコロコロと変わっています。
ラプラシアンのデビュー作に際してのインタビューでは「自分たちはハッピーエンドの作品しか作らない」と応えていました。そのときは本気でそう思っていましたが、その次の作品で早々にビターエンドを描きました。それくらい抜本的な部分ですらコロコロと変わってしまいます。
作品を通して表現したい思いは、どんどん変遷していくんです。自分自身の人生においても、結婚したときには夫という顔ができたし、子どもが生まれたときには父親としての顔ができました。そんな風に自分自身が多面化すると、考えていることや作品に込める信念も変わっていると感じます。
でも、うまい下手に関わらず、買ってくれる人に楽しんでもらうために書いている、ということだけは変わらないです。これで食っていくしかないという、諦めに似たような覚悟はある気がします。
10代・20代に伝えたいこと
自分はなにがしたいのか
自分の気持ちの純度を高く保ってほしいと思います。
若い人は、さまざまな大人からアドバイスをもらう機会があると思います。
相手が好きな人や信頼している人だと、鵜呑みにしてしまいたくもなる。
私自身も、今思えば、他人の意見を優先しすぎた経験もあります。
今はたくさんのSNSがあって人とつながる機会が多くなり、いろいろな人の意見に簡単に触れられるようになりました。その一方で、ひとりでじっくり考える機会は意識的に作らないと人の意見に晒されたまま時間が過ぎていく世の中になりました。
人の話を聞くことも大事ですが、自分はなにがしたいのか、なにに向いているかということは、意外と自覚できているものです。「自分と向き合う時間」と「自然体でいること」を大切にしたほうがよいかと。
クリエイターを目指す人へのアドバイス
乗り越える糧は自分の覚悟
クリエ―ターの最初の一歩は、これで食っていくと腹をくくることだと思います。覚悟が第一、才能はその次です。作品のテーマ性や時代性もあとから考えれば充分。
クリエ―ターは自分の名前を前面に出す仕事です。ペンネームをひとりでも多くの人に覚えてもらい、作品を読んでもらう。必然的に知らない人に好き勝手言われる機会が増えるので、最初はしんどいと思います。
それを乗り越える糧になるのは、自分自身の覚悟以外にはない。これで食っていくんだからしょうがない、仕事なんだから当たり前と割り切るしかない。クリエーターという字面は綺麗ですが、人からお金をもらう以上、綺麗事だけですまないことは覚悟しておく必要があります。
緒乃先生にとってのミライとは
過去になってしまうもの
「いつの間にか過去になっているもの」ですね。実は東京コミュニケーションアート専門学校の学生さんに取材してもらうのはこれで二度目なんです。以前のインタビューでは遠い未来の夢として、「小説家になりたい」と答えていました。
それから、目の前のことをやっているうちに、自然な流れで目指していた小説家デビューの機会をいただけました。今は2冊目の〆切りに追われている真っ最中です。
そんな風に、思い描いていた未来はいつの間にか過去になっています。今回、学生のみなさんがまた話を聞きに来てくれて、前回の取材を思い出してより実感いたしました。
「ミライ」は、きちんと生きていてもサボって生きていても、すぐ過去になってしまうものですね。行動してもしなくても、いつの間にか過去になってしまう。なので、一日に一回、ほんの数秒意識すれば充分だと思います。

取材風景:雑談を交えて、話しやすい空気をつくっていただきました。