現実的な範囲で大切に
文系ではなく理系、数学を専攻したきっかけや理由
浦川:もともと言葉が好きで、小学生のころから国語の授業が好きでした。算数はあまり好きではなく、時間割で次の時間が国語だとワクワクして、算数だとテンションが下がる、というような子どもです。言葉に関わることが好きで、文系人間でこのまま生きていくのだろうと思っていました。
高校生だった2000年代初頭に、メディアアートの作品にふれる機会がありました。日本人作家の作品がたくさんあって。池田亮司・徳井直生・澤井妙治(※Wikipediaなどから参照)など、テクノロジーを使って、音や映像などで作品をつくる作家たちの作品にふれ、興味を持ち始めます。そんなメディアアートに触れて「あぁ、これから面白いことをやるには少し理系っぽいことをわかっていたほうがいいのかもしれない」と高校生のときに理科系に進みます。
大学に進学するとき、表現工学科という表現にまつわる工学を扱う学科ができました。「これは今の自分のためにある学科ではないか」と思い、応募したのですが、学科の選考は2年次から、つまり学部に入ってもしっかり勉強していないと、人気の学科に入れないんです。私は大学1年生のときに電子音楽ばかりつくっていて、恥ずかしながら勉強をほぼしておらず、あいにくそこへ入ることは出来ませんでした。そんな時に、応用数理学科―経済とか、物理とか、情報とか化学とか、世の中のいろいろな場所にある数学について研究するような学科ですーが目に留まります。そこへいけば「理系的なことをわかっていた方が面白いことができるのでは」という気持ちを持ち続けることができると思い、専攻することに決めました。
Qosmoに所属したきっかけ
浦川:Twitterでのアルバイト募集がきっかけです。先ほども例に上げたように、高校生の頃から好きだったメディアアーティストが代表を務める会社で、ぜひ働いてみたいとおもいました。当時processingやopenframeworksといったメディアアート制作のためのプログラミング言語に触れていて、個人的にものを作ったりしていたのですが、これを社会の中で実践する場が得られるのではと、連絡したのがきっかけです。
2015年「近年では日常生活に現れるものやその中で作用するものの創造に興味を持ち」の活動について
浦川: 日常におけるふとした一瞬、に以前から興味があります。たとえば玄関を出たときに外の匂いが変わっていて、季節の変わり目を感じるとか、そういった瞬間です。
メディア・アートでは、美術館の中で、部屋を暗くしてプロジェクターを設置したり、たくさんスピーカーを並べたりというような、環境を設定した上で作品をつくっていくものが多いとおもいますが、先ほど言及したような瞬間がおこりうる、日常的な環境の中で、自然に動作するようなものが作れないかと考えていました普通の生活の中で作品がおいてあって,それが機能する、というようなイメージです。
2014年につくった「バイナリカードゲーム」という作品はまさにそういうもので、コンピュータが情報を表す手段として持っている2進数の概念を、カードゲームとしてあそべるというものでしたが、多くの人に馴染みのあるトランプと同じ形態で制作の上、実際に販売して,鑑賞者の普段の生活に届けるというような試みをおこなっています。
また、日常における一瞬をテキストで捉え、表現するような試みに短歌があるとおもいます。最近では、AIによる短歌の生成を題材とした試みも様々におこなっています。
メディア研究開発センター発足の経緯・活動内容など
田森:メディアラボの中にあった研究チームと情報技術本部の中にあったICTRADという研究チームが一緒になり、2021年にひとつの組織になりました。
メディアラボ立ち上げの経緯としては、新規事業を開発するなど、R&Dを担う部署が、一方で情報技術本部にも研究部隊があり、このように同じようなことをやっているチームが2つありました。そもそもの出自は違いますが、それぞれ同じような方向を向いてきたこと。その後、成果が出始めてきたので、2021年に統合して正式な部署になりました。
過去の取り組みをお話しすると、メイン活動として、「AIを主とした最先端技術を用いて社内外に社会貢献をする」ことがミッションとしてあります。
自然言語処理の分野でいえば、自動で見出しや要約文をつくって、長い文書を短くする要約文をつくるもの。最近では自動で文章の校正をする、間違えたところを指摘するようなAI。そして、音声認識ですね。社内の記者は毎日、音声をレコーディングして、文字起こしのようなことをします。それを自動化するアプリを作成しました。
一方で、データジャーナリズムで記者が取ってきたデータを分析して、読者の皆さんに分かりやすく伝えるAIや、データ分析をおこなったりしています。
今回の取り組みとしては、AIを使って、未来のアーティスト、アート寄りのものを、創造することに浦川は力を入れて取り組んでもらっています。「未来の言葉をつくる」とかですね。その他は、「AI短歌」ですね。短歌をAIでつくるという取り組みです。
浦川:そうですね。短歌に関していうと、重複しますけれど、朝日新聞社の老舗コンテンツの着メロコンテンツとして、朝日歌壇という短歌投稿欄があります。そのデータの蓄積もあれば、文化的な資産でもある活動だと思います。それと新しい技術を使って、これまでになかったコンテンツをつくり、「今まで届かなかった読者にも届ける。」そのためにも、面白く見えるようなニュースを行ったりをしているのだと思っています。
今後の仕事上での目標
浦川:メディア研究開発センターの目標は、
「次の新しい技術のリサーチをおこたらない」
「企業として適切な技術を使い、これまでになかった新しい価値をつくる」
「これまであった価値や体験を深め、架け橋をつくる」
この3つが、あると思っています。
田森:M研としては、あえて言いますとAIによって人減らしをしたいとか、そういうことでなく、最先端技術を使い、社内では革新的な技術を用いて業務改革をしたいということがひとつあります。まだ道半ばです。
もう一方で、社会貢献では、独自のデータとして新聞記事が大量に、過去のデジタルデータも30年分あります。そこを生かして学会発表とか、特許を取得するなどをやっていきたいです。
こちらもまだまだやるべきことがあるし、AIに関しては今、技術が日進月歩で進化していて、かじりついていかなければならないことが今後やっていくべきだと感じています。
AIの未来について
浦川:AIが人間に取って代わって人間の仕事がなくなるという文脈で語られることが多いと思いますが、人の代替としてのAIではなく、人がどのように扱えるのか、それによってどういった変化が起こるのか、と言ったことを考えています。
たとえば短歌AIでも、AIが人に代わって素晴らしい歌をつくる、といったことを目指してはいません。AIが短歌をつくる状況を1回つくってみて、今、人間がおこなっている「歌をつくる」行為について、「もしかしたらこうかもしれない」とか、「AIと人間が一緒に歌をつくると、こういうふうになる」とか、いまある活動がどのように変化していくだろうか、といった視点での取り組みをおこなっています。
新妻:「人間拡張」のような言語に持っていきたい。という感じですかね。
田森:道具としてうまく使っていけるように。
未来を担う10代20代に伝えたいこと
浦川:わたしは自分が好きなこと、興味があることを、現実的な範囲で大事にするということをやっていたようにおもいます。
現実的な範囲でというのは、自分の今を形作っているような原体験にこだわりながらも、時代の流れや実際的な制約、興味の移り変わりといったことで自分が変化することを許容する、というようなイメージです。言葉にすると当たり前という感じもしますが、私はそんなふうにして10代20代を過ごしてきました。それがなにかの参考になればとおもいます。
新妻:「とりあえず目の前のこと頑張りましょう」という感じでしょうか。さまざまなことをやってた、いつか思いもしない形でつながることがあると思っています。
ですから、今やっていることを全力で頑張っていたら、いつか今とは異なる形でつながって役に立つということがあると思います。私は20代なので、20代に向けていうのは少しおかしいかもしれませんが。
田森:新妻さんと似たようなことを常日頃思っています。
経験から行くと、M研は中長期的な観点で、新聞社にとって必要な技術を磨いていき、将来的に他の部署にこういうことやりたいといわれたときに出せることをミッションとして担っています。
最近はやりの言葉で予測不可能な時代の状況を表すVUCAという言葉があります。
予測不可能な世の中になってきている中で、そういうことは、難しいですよね。ですから、結局はすこし後のことしかわからない。目の前のこと、目の前で発生していることを一つひとつつぶしていった後にスティーブ・ジョブズの言葉でいうと、「あとから点同士がつながって線になってく」そんなことでしょうか。
クリエーター、ものづくりを目指す人に向けてメッセージ
浦川:今回、AIの創造的な応用といった話をしましたが、それがどのように実践されるのか、といったことにはやはり興味があります。今後、多くの分野で意識が必要な要素の一つになるのではと考えます。
あなたにとって、未来とは
浦川:このあと起きることの全部でしょうか。「現在の辞書」にはそのように書いてあったりしますよね。
新妻:私にとっての未来。過去と違って未来とは自分である程度決められるものです。過去をいくら後悔しても一生変わらないので、その先をしっかりと考えて、自分で選んでいくという認識ですかね。
田森:あまり今はとらえられない。予測不可能な時代なので。
(文中の敬称は、省略させていただきました)
●企画/本文構成:土屋 愛馨
●取材&データ作成:土屋 愛馨、丸 大輝、河本 ワダチ
●WEB作成:土屋愛馨、飯田鈴
●掲載日:2023/2/10