『未来』
著者:湊かなえ
出版社:双葉社(双葉文庫)
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ミステリ好きなら語らずにはいられない作者と言われたら、私は真っ先に本作品の著者である湊かなえを推す。一人称で進むストーリーは、どの人物も不安定で闇がある。その不安定さは読者を物語の世界に引き込みながらもどこかリアリティのある問題を突きつける。
今回は、そんな湊かなえの作品『未来』を紹介する。
本作品は、湊かなえデビュー10周年の記念作品となる長編書き下ろしの作品だ。
父を亡くし、人形の状態の母との2人暮らしをしていたある日、一通の手紙が届く。20年後の自分だという送り主に向け、章子は返事の手紙をしたためるようになる。
本作品でも「湊かなえワールド」全開で、章が変わるたびに語り手が変わり、登場人物たちの壮絶な人生が露わになっていく。そうすると、ひとつの大きな事件の真相が見えてくる。
私の知る湊かなえの作品は、読後の多くに胸の中にしこりが残るような作品が多い。イヤミス(読後にイヤな気持ちになるミステリ作品)とまではいかずとも、少なくとも「未来」を感じることは私には難しかった。
しかし、本作においては仄暗い中にもどこか「未来」を感じられる作品であるように思う。
一方で、前述させていただいた登場人物の不安定さと、そこから滲み出るリアリティは本作でもひしと伝わってくる。
章子を取り巻く家庭環境、学校生活。章子の視点から外れた後も、現代における社会問題と闇を感じることができる。
最近、ニュースでは事件の犯人の背景を取り上げることが多くなったように思う。SNS上でも犯人に同情の気持ちを示すコメントが寄せられるような事件が見られることもある。
自身を取り巻く環境に限界がきたとき、人は思いもよらない行動に出る。本作ではそれを生々しく感じられる。
登場人物の彼女らにとっての「未来」とは何か? 「幸福」とは何か? 「希望」とは何か?−−そして、未来の自分からの手紙の真相とは?
いつもと一味違った湊かなえの作品を、ぜひ手にとっていただきたい。
Text:3年 野水聖来
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